
睡眠と記憶の定着
子どもに最適な学習サイクルと勉強時間
【脳科学で解説】
「勉強したのに覚えていない」「テスト前は夜遅くまで勉強させるべき?」――多くの保護者が一度は悩むテーマです。実は、子どもの学習成果を大きく左右するのは“睡眠” です。脳科学の研究によれば、記憶は睡眠中に整理・定着することがわかっています。つまり、ただ「長時間勉強する」よりも「質の高い睡眠を取ること」の方が、記憶力や集中力に直結するのです。
本記事では、
- 睡眠と記憶の関係(脳科学的根拠)
- 勉強に最適な時間帯(夜型・朝型)
- 子どもの年齢別の睡眠時間と学習サイクル
- 家庭でできる工夫と習慣づくり
を解説します。お子さんの学習リズムを整える参考にしてください。
睡眠と記憶の関係【脳科学が示す学習効果】
睡眠中に起こる脳の働きとは?【レム睡眠とノンレム睡眠】
脳は眠っている間も活発に働いています。特に重要なのが レム睡眠(夢を見る浅い睡眠) と ノンレム睡眠(深い睡眠) のサイクルです。
- ノンレム睡眠:その日に得た情報を一時的に整理し、不要な情報を削除
- レム睡眠:必要な情報を長期記憶として固定し、関連づけて保存
ドイツの心理学者Rasch & Born(2013)は、睡眠が記憶の再固定(リコンソリデーション)に不可欠だと報告しています。つまり、勉強した後にしっかり眠ることで、記憶が脳に定着しやすくなるのです。
記憶の種類(短期記憶・長期記憶)と睡眠の関わり
記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。
- 短期記憶:数秒〜数分程度の保持(例:電話番号を一時的に覚える)
- 長期記憶:日や年単位で保持される記憶(例:九九、漢字、英単語)
睡眠は、この「短期記憶」を「長期記憶」に変換するスイッチの役割を果たします。だからこそ、「夜に暗記した英単語を翌朝思い出せる」のです。
睡眠不足が子どもの記憶力・集中力に与える影響
米スタンフォード大学の研究によれば、睡眠不足は記憶力・注意力を20〜30%低下させるとされています。特に子どもは脳の発達途中であり、睡眠不足は学習だけでなく情緒面や免疫力にも悪影響を及ぼします。
👉 「夜遅くまで勉強させる」よりも「睡眠時間をしっかり確保する」方が、学習効果は高いと考えてください。
勉強と睡眠のベストな関係【夜型・朝型どっちがいい?】
夜に勉強するメリット・デメリット【寝る前学習の効果】
- メリット:勉強直後に睡眠に入ると、学んだ内容が記憶に残りやすい
- デメリット:夜遅すぎると睡眠不足を招き、翌日の集中力を損なう
👉 「寝る前に軽く暗記学習をして、そのまま眠る」スタイルは脳科学的に効果的。
朝に勉強するメリット・デメリット【記憶のリフレッシュ】
- メリット:睡眠で脳がリセットされ、集中力が高い状態で学習できる
- デメリット:朝が慌ただしい家庭では学習時間が確保しづらい
👉 「夜に覚えた内容を翌朝に復習する」二段階学習は、記憶の定着に非常に効果的です。
テスト前は徹夜NG?脳科学が示す最適な睡眠時間
ハーバード大学の研究でも、徹夜した学生は通常の睡眠を取った学生に比べて記憶テストの成績が大幅に低下しました。
👉 テスト前は「勉強量より睡眠の質」。少なくとも6〜8時間の睡眠が必要です。
子どもの年齢別に必要な睡眠時間と学習サイクル
小学生の最適な睡眠時間と勉強の時間帯
米国睡眠財団の指針では、小学生には 9〜12時間の睡眠 が推奨されています。
- 宿題や復習は「夕食後〜就寝前」に軽く行う
- 翌朝は「前日の復習」を15分程度取り入れる
中高生の睡眠不足が学力に及ぼす影響
中高生は部活動や塾で睡眠時間が不足しがちですが、必要なのは 8〜10時間の睡眠。睡眠不足が続くと学力だけでなく、情緒の安定や心身の健康にも悪影響を及ぼします。
生活リズムと学習効果を高めるコツ
- 毎日同じ時間に寝る・起きる
- 就寝90分前にスマホやゲームをやめる
- 睡眠前の「ルーティン」を作る(読書、ストレッチなど)
👉 規則正しいリズムが、学習効率と集中力を大きく左右します。
家庭でできる睡眠×学習サイクルの工夫【実践版】
寝る前の勉強で記憶を定着させるコツ
- 暗記系に特化する
漢字・英単語・歴史の年号など「覚えるだけ」の学習が効果的。寝る前の10分暗記は、翌朝のテストで得点につながりやすい。 - 新しい単元は避ける
難しい問題や新しい概念を寝る前にやると、かえって脳が興奮して眠れなくなる。復習や軽い確認がベスト。 - ポジティブに終える
「今日はここまでできた!」という小さな成功体験で眠りにつくと、自己効力感が高まり学習習慣が続きやすい。 - 視覚と音声を組み合わせる
単語帳+音読、漢字練習+声に出す、といった複数感覚を使うと記憶の定着率がさらに上がる。
寝る前に避けたい習慣(スマホ・ゲーム・カフェイン)
- スマホやタブレット
ブルーライトはメラトニンの分泌を抑え、眠気を遠ざける。最低でも就寝30分前にはやめる。 - ゲーム・SNS
勝敗や通知が脳を興奮状態にし、交感神経が活性化。眠りの質を下げる原因に。 - カフェイン
コーヒーだけでなく、紅茶・緑茶・エナジードリンク・チョコレートにも注意。摂取から6時間は影響が残るとされる。 - 夜食や糖分の多いお菓子
消化活動で内臓が働きすぎ、深い睡眠に入りにくくなる。
👉 睡眠の質を守るためには「やるべきこと」より「やめるべきこと」を家族で共有しておくのが効果的。
学習と睡眠を組み合わせたおすすめルーティン例
- 夕方(16〜18時)
宿題や理解が必要な学習を行う。思考力を使う算数や読解など、頭を使う科目はこの時間に。 - 就寝前(20〜21時台)
暗記学習を10分だけ。例:漢字5個、英単語10個。タイマーを使って区切ると習慣化しやすい。 - 睡眠(21〜22時〜翌朝)
小学生は9〜11時間、中高生は8〜10時間を目安に。規則正しい就寝・起床リズムを守る。 - 朝(登校前の15分)
前夜の暗記内容を軽く復習。脳がリセットされた状態でアウトプットすることで、記憶がさらに強固になる。
さらにできる+αの工夫
- 学習環境を整える
寝る前の学習はリビングではなく、自室や静かな空間で行う。 - ルーティンを決める
「歯磨き → 学習10分 → 日記を書く → 就寝」と流れを固定すると、脳が「眠る準備」をしやすい。 - 家族で巻き込む
「寝る前の読書タイム」を親子で設けるなど、一緒に取り組むと習慣化が定着しやすい。
💡 まとめると:
- 就寝前は 「復習・暗記」に限定して短時間 に
- スマホやカフェインなど、睡眠を妨げる習慣は徹底的に避ける
- 夜のインプット+朝のアウトプット が最強の学習サイクル
- 生活リズムそのものを整えることが、学習習慣を支える土台になる
まとめ|「睡眠は最高の学習サポート」
- 記憶は睡眠中に定着する
- 夜の勉強は「暗記系」、朝の勉強は「復習系」に最適
- 年齢に応じて十分な睡眠時間を確保することが大前提
- 規則正しい生活リズムが集中力と学習効率を底上げする
MOANAVIでは、こうした脳科学的な知見を取り入れながら「自己調整学習」や「STUDY POINTシステム」を通じて、子どもが無理なく学びを習慣化できる仕組みを提供しています。
参考文献
- Rasch, B., & Born, J. (2013). About sleep’s role in memory. Physiological Reviews.
- Walker, M. (2017). Why We Sleep. Scribner.
- American Academy of Pediatrics (2016). School Start Times for Adolescents.
- National Sleep Foundation. (2015). Sleep in Children and Teens.
記事を書いた人

西田 俊章(Nishida Toshiaki)
STEAM教育デザイナー / MOANAVIスクールディレクター
理科・STEAM教育の専門家として、20年以上にわたり子どもたちの学びに携わる。文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』の著者であり、TVやラジオで教育解説の経験ももつ。「体験×対話」の学びを大切にし、子どもたちが楽しく学べる環境を提供している。
📚 経歴・資格
✅ 文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』著者
✅ 元公立小学校教員(教員歴20年)
✅ 横浜国立大学大学院 教育学研究科 修士(教育学)
✅ TVK『テレビでLet’s study』理科講師として出演
✅ Fm yokohama『Lovely Day』でSTEAM教育を解説