
お正月に食べる料理には、ひみつがたくさんかくれています。
どうして大晦日には年越しそばを食べるの?
おせち料理の中の黒豆やえびには、どんな意味があるの?
お雑煮の味やおもちの形が、家や地域でちがうのはなぜだろう?
実は、お正月料理は、ただのごちそうではありません。
昔の人たちは、**「元気にすごしたい」「しあわせな一年にしたい」**という願いを、食べ物にこめてきました。
この文章では、
- 年越しそば
- おせち料理
- お雑煮
- おもち
- 七草がゆ
といったお正月の料理について、
なぜ食べるのか?どんな意味があるのか?
を、わかりやすく紹介します。
読み終わるころには、
「いつも食べている料理が、ちがって見えてくる」
はずです。
さあ、お正月料理のひみつを、いっしょにさがしに行きましょう。
お正月料理とは?日本の年末年始に食べる特別な食べ物
お正月料理とは、日本で年末から年始にかけて食べられる特別な料理のことです。ふだんの食事とはちがい、「新しい年をむかえること」や「これからの一年がよい年になること」を願って食べられてきました。
日本では昔から、お正月はとても大切な行事でした。今のようにカレンダーや時計がなかった時代、人びとは季節の変わり目をとても大切にしていて、一年のはじまりであるお正月は、特別な区切りの時と考えられていたのです。
そのため、お正月には
・年越しそば
・おせち料理
・お雑煮
・七草粥
など、意味のある料理が決まった日に食べられてきました。これらをまとめて「お正月料理」と呼ぶことができます。
こうした料理は、ただおなかを満たすためのものではありません。
「長生きできますように」
「家族みんなが元気に過ごせますように」
「作物がたくさんとれますように」
といった、人びとの願いが食べ物にこめられているのが大きな特徴です。
このように、行事や季節にあわせて食べられる料理のことを**「行事食(ぎょうじしょく)」**といいます。お正月料理は、日本の行事食の中でも、とくに種類が多く、意味がはっきりしている料理です。
また、お正月料理にはもう一つ大切な共通点があります。それは、家族や親せきが集まって食べる料理だということです。みんなで同じ料理を食べながら新年をむかえることで、「また一年、がんばろう」という気持ちを確かめ合ってきたのです。
今では、すべての家庭で同じお正月料理を食べているわけではありません。買ったおせちを食べる家もあれば、好きな料理だけを用意する家もあります。それでも、「お正月に特別な料理を食べる」という考え方は、今も日本の文化として大切に受けつがれています。
これから、この文章では
なぜ年越しそばを食べるのか
おせち料理にはどんな意味があるのか
お雑煮や餅はなぜ地域でちがうのか
といった、お正月料理のひみつを一つずつ見ていきます。
クイズ①
次のうち、お正月料理が「特別な料理」とされてきた理由として、もっとも合っているものはどれでしょう?
- ふだんより高い食材を使っているから
- 新しい年の幸せや健康を願う気持ちがこめられているから
- お正月は料理をしなくてよい決まりがあるから
正解は 2 です。
👉 お正月料理には、新しい年を元気に過ごしたいという人びとの願いがこめられてきました。
年越しそばの意味|なぜ大晦日にそばを食べるの?
年越しそばとは、12月31日の大晦日に食べるそばのことです。今では当たり前のように食べられていますが、年越しそばにも、お正月料理らしい大切な意味がこめられています。
まず、そばは細くて長い形をしています。この形から、
「細く長く生きられますように」
「家族みんなが長生きできますように」
という願いが生まれました。新しい年をむかえる前に、これから先の健康や幸せを願って食べられてきたのです。
また、そばにはもう一つ大きな特徴があります。それは、切れやすいということです。そばは、うどんなどとくらべると、ぷつっと切れやすい麺です。このことから、
「一年の苦労やいやなことを、年の終わりに切り離す」
という意味もこめられるようになりました。
つまり年越しそばは、
- 長生きを願う
- いやなことを新しい年に持ちこさない
という、二つの気持ちを表した料理なのです。
年越しそばを食べる時間にも、決まりがあるわけではありません。夕ごはんとして食べる家もあれば、夜おそくに食べる家もあります。ただし昔から、年が明ける前に食べ終えるのがよいとされてきました。これは、「去年のうちに区切りをつける」という考え方からきています。
そばの食べ方も、地域や家庭によってさまざまです。
- 温かいかけそば
- 冷たいざるそば
- えび天がのった天ぷらそば
など、形はちがっても、「年の終わりにそばを食べる」という意味は共通しています。
このように、年越しそばはただの夕食ではなく、一年をふり返り、新しい年を気持ちよくむかえるための行事食です。お正月料理は、すでにこの大晦日から始まっていると言えるでしょう。
クイズ②
年越しそばに「切れやすい」という特徴があることで、こめられている意味はどれでしょう?
- そばは調理がかんたんだから
- 一年の苦労やいやなことを切りはなすため
- たくさん食べられるようにするため
正解は 2 です。
👉 年越しそばは、去年のつらいことを新しい年に持ちこさないという願いを表しています。
おせち料理とは?名前の由来と歴史
おせち料理とは、お正月に食べる日本の伝統的な料理のことです。重箱にいくつもの料理をつめて、新しい年を祝いますが、この「おせち」という言葉には、もともと特別な意味がありました。
「おせち」は、漢字では**「御節(おせち)」**と書きます。
この「節(せつ)」は、季節の変わり目に行われる大切な日のことを表す言葉です。昔の日本では、今のように毎日同じ生活をしていたわけではなく、季節の区切りとなる日をとても大切にしていました。
その中でも、お正月は一年でいちばん大切な「節目(ふしめ)」です。その特別な日に食べる料理として用意されたのが、おせち料理でした。
では、なぜお正月にまとめて料理を作るのでしょうか。
これには、昔の暮らしが大きく関係しています。
昔は、お正月のあいだは火を使わずにゆっくり過ごすという考え方がありました。料理をする人も休めるように、年末のうちにたくさんの料理を作り、正月の数日間はそれを食べて過ごしたのです。そのため、おせち料理には、日もちしやすい料理が多くなりました。
たとえば、
- しっかり味をつける
- 煮る・焼くといった調理法を使う
- 砂糖やしょうゆを使う
といった工夫がされています。これは、「おいしさ」だけでなく、長く食べられるようにする知恵でもありました。
また、おせち料理を重箱につめることにも意味があります。重箱は「重ねる」箱です。
- 幸せが重なりますように
- よいことが何度も続きますように
という願いが、この形にこめられています。
今の時代では、冷蔵庫があり、コンビニやスーパーもあります。そのため、昔と同じ理由でおせち料理を作る必要はありません。それでも、おせち料理は今も大切にされています。
それは、おせち料理が
「新しい年を大切にむかえる気持ち」
を形にした料理だからです。
すべての料理をそろえなくても、買ったものでも、少しだけ作ってもかまいません。おせち料理は、家族や大切な人と、新しい年を祝うための料理なのです。
おせち料理にこめられた縁起と意味|食べ物にこめられた願い
おせち料理のいちばん大きな特徴は、一つ一つの料理に意味や願いがこめられていることです。昔の人は、新しい年がよい年になるように、食べ物の名前・形・色・使われている材料から、たくさんの思いを表しました。
ここでは、できるだけ多くのおせち料理を取り上げて、その意味を見ていきましょう。
※すべて覚える必要はありません。「なるほど」と思えるものを見つけることが大切です。
黒豆(くろまめ)
黒豆には、
「まめに働く」「元気(まめ)に過ごす」
という願いがこめられています。黒い色は昔から魔よけの色とも考えられていました。
数の子(かずのこ)
数の子は、にしんの卵です。卵の数が多いことから、
「子どもや家族が増える」「子孫が栄える」
という意味があります。
田作り(たづくり・ごまめ)
田作りは、昔、いわしを田んぼの肥料に使っていたことから、
「作物がたくさんとれますように(豊作)」
という願いを表しています。
栗きんとん
黄色や金色をした栗きんとんは、
「金運」「豊かさ」
を表す料理です。「きんとん」は金団とも書き、お金を連想させます。
昆布巻き(こんぶまき)
昆布は「よろこぶ」という言葉に通じることから、
「お祝い」「よろこびごと」
を表す縁起のよい食べ物です。
伊達巻(だてまき)
伊達巻は、巻物の形をしていることから、
「学問が身につく」「知恵が増える」
という意味があります。見た目がきれいなことから「めでたい料理」とも考えられました。
紅白かまぼこ
赤と白は、日本では昔からお祝いの色です。
「紅白=めでたい」
という考え方から、お正月に欠かせない料理になりました。
海老(えび)
えびは、腰が曲がるまで長生きする様子から、
「長生き」「健康」
を願う料理です。ひげが長いことも長寿のイメージにつながっています。
蓮根(れんこん)
れんこんには穴があいています。この穴から先が見えることから、
「見通しがよい」「将来が明るい」
という意味があります。
くわい
くわいは、大きな芽が出る野菜です。そのため、
「芽が出る」「出世する」「目標がかなう」
という願いがこめられています。
ごぼう
ごぼうは、地面の中に深く根をのばします。このことから、
「家がしっかり根づく」「長く続く」
という意味があります。
里芋・八つ頭(やつがしら)
里芋や八つ頭は、子芋がたくさんできることから、
「子孫繁栄」「家族が増える」
という願いを表します。
なます(大根とにんじんの酢の物)
白(大根)と赤(にんじん)で、
「紅白=お祝い」
を表す料理です。さっぱりしていて、口直しの役割もあります。
たたきごぼう
ごぼうをたたいて作る料理で、
「地に足をつけて生きる」「家が安定する」
という意味があります。
おせち料理の意味は、科学のように「正解が一つ」あるわけではありません。
昔の人が、食べ物にどんな願いをこめたのかを考えることが大切です。
同じ料理でも、地域や家庭によって意味の伝え方がちがうこともあります。それも含めて、おせち料理は日本の文化そのものと言えるでしょう。
クイズ③
次のうち、「将来の見通しがよい」という意味がこめられているおせち料理はどれでしょう?
- 黒豆
- れんこん
- 海老
正解は 2 です。
👉 れんこんは穴があいていて、先が見えることから「見通しがよい」と考えられてきました。
おせち料理の主なメニュー一覧|重箱の中身を見てみよう
おせち料理は、**重箱(じゅうばこ)**に料理をつめて出されるのが一般的です。重箱は箱を重ねて使うことから、
「よいことが重なりますように」
という願いがこめられています。
ここでは、おせち料理を重箱ごとに分けて見ていきましょう。地域や家庭によってちがいはありますが、昔からよく入れられてきた料理を中心に紹介します。
一の重(いちのじゅう)|祝い肴・口取り
一の重には、とくに縁起を大切にした料理が入ります。おせち料理の中でも、いちばん意味を重んじられる重箱です。
- 黒豆
- 数の子
- 田作り(ごまめ)
- 栗きんとん
- 伊達巻
- 紅白かまぼこ
- 昆布巻き
- きんかん甘露煮
見た目が明るく、甘い味つけのものが多く、子どもでも食べやすい料理がそろっています。
二の重(にのじゅう)|焼き物・酢の物
二の重には、魚や肉を使った料理や、口をさっぱりさせる料理が入ります。ごちそう感のある重箱です。
- 海老のうま煮
- 鯛の焼き物
- ぶりの照り焼き
- 酢だこ
- なます(大根とにんじんの酢の物)
- 菊花かぶ
お祝いの席らしく、色や形が美しい料理が多いのも特徴です。
三の重(さんのじゅう)|煮物
三の重には、野菜を中心とした煮物が入ります。家族や家の安定を願う意味が強い料理です。
- 煮しめ(筑前煮)
- にんじん
- れんこん
- ごぼう
- 里芋
- しいたけ
- こんにゃく
- くわい
- 八つ頭
煮物は味がしみていて、時間がたつほどおいしくなるのも特徴です。
与の重(よのじゅう)について
「四」は「死」を連想させるため、四の重を使わず、与の重と呼ぶことがあります。ここには、家庭ごとの料理や、残しておいた料理を入れることもあります。
家庭や地域で変わるおせち料理
昔は、すべての重箱をそろえる家庭も多くありましたが、今では
- 好きな料理だけ作る
- 一部は買って、一部は手作りする
- 重箱を使わず、お皿に盛る
といった形も一般的です。
おせち料理に「これが正解」という形はありません。
大切なのは、新しい年を祝う気持ちと、家族で食卓を囲む時間です。
家庭で作るおせち料理|簡単な作り方と材料
おせち料理というと、「作るのが大変そう」「むずかしそう」と感じる人も多いかもしれません。でも、すべてを手作りする必要はありません。
昔と今では、暮らし方がちがうからです。
昔は、お正月のあいだに料理をしなくてすむように、年末にまとめておせち料理を作っていました。今は、冷蔵庫やお店があるので、
- 一部だけ作る
- かんたんなものだけ作る
- 手伝いやすい料理を選ぶ
という形で、おせち料理を楽しめば十分です。
ここでは、家庭で作りやすく、子どもも手伝えるおせち料理を中心に紹介します。
家庭で作りやすいおせち料理
黒豆
- 材料:黒豆、砂糖、しょうゆ
- ポイント:時間はかかるが、火を使う作業は少ない
- 子どもは、豆を洗ったり、味見をしたりする役を担当できます
なます(大根とにんじんの酢の物)
- 材料:大根、にんじん、酢、砂糖
- ポイント:切ってあえるだけ
- 包丁を使うときは、大人といっしょに行うと安心です
栗きんとん風
- 材料:さつまいも、砂糖
- ポイント:市販の栗がなくても作れる
- つぶしたり混ぜたりする作業は、子どもでも楽しめます
伊達巻風(卵焼き)
- 材料:卵、砂糖
- ポイント:甘めの卵焼きにするだけでもOK
- 巻く作業を体験できます
おせち料理によく使われる材料のひみつ
おせち料理には、冬でも手に入りやすく、保存しやすい材料が多く使われています。
- 根菜(れんこん・ごぼう・にんじん)
→ 土の中で育ち、冬でも保存できる - 砂糖・しょうゆ
→ 食べ物が傷みにくくなる - 煮る・焼く調理法
→ 水分をとばし、長もちさせる工夫
これは、冷蔵庫がなかった時代の知恵です。
「手伝う」こともおせち料理の大切な役目
おせち料理は、料理そのものだけでなく、
家族で準備をする時間も大切にされてきました。
- 材料を洗う
- 盛りつけを考える
- 意味を話しながら食べる
こうした体験が、お正月料理を「特別なもの」にしています。
クイズ④
おせち料理に根菜(れんこん・ごぼうなど)がよく使われる理由として、もっとも合っているものはどれでしょう?
- 冬でも保存しやすかったから
- 色が派手だから
- すぐに育つ野菜だから
正解は 1 です。
👉 根菜は冬でも保存しやすく、昔のおせち料理に向いていた野菜です。
お雑煮とは?お正月に食べる理由
お雑煮(おぞうに)とは、お正月に餅(もち)を入れて食べる汁物の料理です。おせち料理と同じく、日本のお正月には欠かせない料理ですが、その役割は少しちがいます。
おせち料理は、年末に準備してお正月のあいだに食べる料理でした。一方で、お雑煮は、お正月に入ってから作り、その日に食べる料理です。そのため、お正月の「始まり」を感じさせる料理とも言えます。
お雑煮のいちばん大切な材料は、餅です。餅は、昔から
- 神様にお供えする食べ物
- 特別な日に食べる食べ物
として大切にされてきました。
お正月には、「年神様(としがみさま)」と呼ばれる神様が家にやってくると考えられていました。お雑煮は、年神様にお供えした餅や食べ物をいただく料理とされ、新しい年の力を体に取り入れるという意味がこめられています。
また、お雑煮は家族みんなで同じものを食べる料理でもあります。おせち料理は、好きなものを少しずつ取って食べますが、お雑煮は一人一杯ずつよそわれることが多く、家族全員が同じ料理を口にします。そこにも、「一年を同じ気持ちで始める」という意味がこめられています。
お雑煮に入る具は、
- 鶏肉
- 野菜
- 魚
など、家庭や地域によってさまざまです。これは、「家にある材料で作る料理」だったこととも関係しています。
このように、お雑煮は
- 年神様をむかえる
- 新しい年の力をいただく
- 家族で新年を始める
という意味をもつ、お正月ならではの料理なのです。
お雑煮の地域ごとの違い|関東・関西・全国比較
お雑煮は、日本全国で食べられているお正月料理ですが、地域によって味・餅・具が大きくちがうことで知られています。
同じ「お雑煮」という名前でも、場所が変わると、まったく別の料理のように感じることもあります。
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これは、日本の地形や気候、昔からの食文化が深く関係しています。
関東地方のお雑煮
関東地方では、すまし汁に角餅を入れるお雑煮が一般的です。
- だし:かつお節・昆布
- 餅:角餅(焼いてから入れることが多い)
- 具:鶏肉、小松菜、にんじん など
しょうゆ味で、すっきりした味わいが特徴です。江戸の食文化の影響を受け、シンプルで食べやすいお雑煮が広まりました。
関西地方のお雑煮
関西地方では、白味噌仕立てに丸餅を入れるお雑煮がよく見られます。
- だし:昆布
- 餅:丸餅(煮て入れることが多い)
- 具:大根、里芋、にんじん
白味噌の甘みがあり、やさしい味が特徴です。丸い形の餅は、縁が切れないことを表すとも言われています。
東北地方のお雑煮
寒さのきびしい東北地方では、具だくさんのお雑煮が多く見られます。
- だし:かつお節・昆布
- 餅:角餅
- 具:鶏肉、根菜、きのこ類
体を温めるために、野菜や肉がたっぷり入るのが特徴です。
中国・四国地方のお雑煮
この地域では、海の幸が入ることもあります。
- 具:ぶり、鯛、かき など
- 餅:丸餅が多い
海に近い地域ならではの、地元の食材を生かしたお雑煮です。
九州地方のお雑煮
九州地方では、**あごだし(トビウオ)**など、だしに特徴があります。
- だし:焼きあご
- 餅:丸餅
- 具:鶏肉、野菜
だしのうま味が強く、地域の食文化がはっきり表れています。
なぜこんなにちがうの?
お雑煮の地域差には、いくつかの理由があります。
- とれる食材がちがう
- 昔の都(京都・江戸)の文化の影響
- 気候(寒さ・海や山の近さ)
つまり、お雑煮は
「その土地のくらしがそのまま表れた料理」
なのです。
クイズ⑤
次のうち、白味噌仕立てのお雑煮が多い地域はどこでしょう?
- 関東地方
- 関西地方
- 東北地方
正解は 2 です。
👉 関西地方では、白味噌文化が根づいています。
餅とはどんな食べ物?正月に欠かせない理由
餅(もち)は、お正月料理の中心となる大切な食べ物です。お雑煮に入ったり、鏡餅としてかざられたりと、さまざまな形でお正月に登場しますが、なぜ餅はここまで大切にされてきたのでしょうか。
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餅の原料は、もち米です。もち米は、ふつうのお米よりもねばりが強く、ついてつぶすことで、のびる餅になります。この「よくのびる」性質から、餅は昔から
「長く続く」「命がのびる」
といった、よい意味を持つ食べ物と考えられてきました。
また、餅はふだんの食事ではなく、
- 収穫のお祝い
- 祭り
- お正月
など、特別な日にだけ食べる食べ物でした。そのため、餅そのものが「特別」「めでたい」というイメージを持つようになったのです。
餅と神様の関係
昔の人は、お正月になると年神様が家にやってくると考えていました。餅は、その年神様にお供えするための、とても大切な食べ物でした。
お供えした餅を、あとで家族みんなで食べることで、
「神様の力を体に取り入れる」
と考えられていたのです。
鏡餅の意味
お正月にかざられる鏡餅は、丸い餅を二つ重ねた形をしています。
この形には、
- 丸い形=円満
- 重ねる=幸せが重なる
という意味があります。鏡餅は、見た目のかざりではなく、願いをこめたお供え物なのです。
角餅と丸餅のちがい
餅の形は、地域によってちがいます。
- 丸餅:西日本に多い
- 神様に供える形を大切にした
- 縁が切れない形
- 角餅:東日本に多い
- のばして切るため作りやすい
- 人が多い地域で広まりやすかった
このちがいは、お雑煮の地域差にもつながっています。
餅はいろいろな料理に使われる
餅は、お正月の間にさまざまな形で食べられます。
- お雑煮
- 焼き餅
- あられ・かきもち
- 地域ごとの餅料理
同じ餅でも、食べ方が変わるだけで、ちがう料理になるのも、餅のおもしろいところです。
このように、餅は
- 神様と人をつなぐ
- 家族をつなぐ
- 新しい年のはじまりを表す
という意味をもつ、お正月に欠かせない特別な食べ物なのです。
七草粥の意味|なぜ1月7日に食べるの?
七草粥(ななくさがゆ)は、1月7日に食べるおかゆのことです。おせち料理やお雑煮など、たくさんのごちそうを食べたお正月のあとに、どうして七草粥を食べるのでしょうか。
そこには、昔の人の体を思いやる知恵がつまっています。
七草粥に使われるのは、春の七草とよばれる7種類の植物です。
- せり
- なずな
- ごぎょう
- はこべら
- ほとけのざ
- すずな(かぶ)
- すずしろ(だいこん)
これらは、冬から春にかけて芽を出す植物で、新しい命のはじまりを感じさせる草でもあります。
七草粥を食べる理由の一つは、お正月に食べすぎた体を休ませることです。おせち料理は味がしっかりしていて、油や砂糖も多く使われています。そこで、胃や腸をやさしく休ませるために、消化のよいおかゆを食べるようになりました。
もう一つの理由は、一年の健康を願うためです。
「今年も元気に過ごせますように」
という気持ちをこめて、春の七草を入れたおかゆを食べました。
七草粥には、薬のような特別な力があるわけではありませんが、
- 体にやさしい
- 季節の変わり目に合った食事
という点で、とても理にかなった料理です。
また、七草粥を食べることで、お正月料理の時間が終わり、ふだんの生活に戻るという合図にもなります。年末から続いていた特別な食事のしめくくりとして、七草粥が選ばれてきたのです。
クイズ⑥
七草粥を1月7日に食べる理由として、もっとも合っているものはどれでしょう?
- おせち料理を全部食べきるため
- 体を休ませ、一年の健康を願うため
- 春の七草が一番おいしい日だから
正解は 2 です。
👉 七草粥は、食べすぎた体を休ませ、元気に一年を過ごすことを願う料理です。
自由研究に使える!お正月料理の調べ学習アイデア
お正月料理は、「調べる → まとめる → 自分の考えを書く」がとてもしやすいテーマです。ここでは、小学生〜中学生が家庭や身近な人といっしょに取り組める自由研究アイデアを紹介します。
家庭のお正月料理を調べてみよう
まずは、自分の家のお正月料理を調べてみましょう。
調べるポイントの例
- 年越しそばは食べた?
- おせち料理には何が入っていた?
- お雑煮の味や具は?
- 七草粥は食べた?
それぞれについて、
「なぜその料理を食べるのか」
「どんな意味があるのか」
を書きそえると、立派な自由研究になります。
お雑煮の地域差マップを作ろう
お雑煮は、地域によって大きくちがいます。
やり方の例
- 家族や親せきに、お雑煮の話を聞く
- インターネットや本で地域のお雑煮を調べる
- 日本地図に
- 汁の種類
- 餅の形
- 具
を書きこむ
「同じ日本でも、こんなにちがう」
という発見がまとめやすいテーマです。
おせち料理の縁起をイラストでまとめる
おせち料理の意味は、絵にするととても分かりやすくなります。
例
- 黒豆 → 元気に働く
- れんこん → 先が見通せる
- 海老 → 長生き
- くわい → 芽が出る
料理の絵と、意味をセットでまとめると、
低学年でも読みやすい自由研究になります。
餅の形と地域の関係を調べよう
餅には、丸餅と角餅があります。
調べる内容の例
- 自分の家の餅の形
- 東日本と西日本のちがい
- なぜ形がちがうのか
「どうして同じ餅なのに形がちがうのか」を考えると、
歴史やくらしとのつながりが見えてきます。
お正月料理の「流れ」をまとめてみよう
年末から年始にかけて、食べ物には順番があります。
例
- 大晦日:年越しそば
- 正月:おせち料理・お雑煮
- 1月7日:七草粥
この流れを、
- 時間の順
- 食べる理由
でまとめると、社会科・総合学習型の自由研究になります。
まとめ方のコツ
自由研究の最後には、
- いちばんおどろいたこと
- 家族の話を聞いて気づいたこと
- 昔の人の工夫ですごいと思ったこと
など、自分の考えを書きましょう。
それがあると、「調べただけ」で終わらない、よい自由研究になります。
おさらいクイズ|お正月料理をふり返ろう
クイズ①
お正月料理をまとめて「行事食」と呼ぶ理由として、いちばん合っているものはどれでしょう?
- 決まった日に、意味をもって食べられる料理だから
- 高級な食材を使っている料理だから
- お正月だけ料理をしてはいけない決まりがあるから
正解は 1 です。
👉 行事食は、季節や行事に合わせて意味をもって食べられる料理です。
クイズ②
年越しそばを大晦日に食べる意味として、正しくないものはどれでしょう?
- 長生きを願うため
- 一年の苦労を切りはなすため
- 新年になってから食べる決まりがあるから
正解は 3 です。
👉 年越しそばは、年が明ける前に食べるのが一般的です。
クイズ③
次のうち、「子孫が増えること」を願ったおせち料理はどれでしょう?
- 黒豆
- 数の子
- れんこん
正解は 2 です。
👉 数の子は、卵がたくさんあることから子孫繁栄を表します。
クイズ④
おせち料理に、煮物や味のこい料理が多い理由として正しいものはどれでしょう?
- 色をあざやかにするため
- 日もちさせるための工夫だから
- 火をたくさん使いたかったから
正解は 2 です。
👉 冷蔵庫がなかった時代、日もちさせる工夫が大切でした。
クイズ⑤
関西地方のお雑煮の特徴として、よく見られるものはどれでしょう?
- 角餅としょうゆ味
- 丸餅と白味噌
- 角餅と焼き魚
正解は 2 です。
👉 関西では、白味噌仕立てに丸餅が多く見られます。
クイズ⑥
七草粥を食べる目的として、もっとも合っているものはどれでしょう?
- お正月料理を長く楽しむため
- 体を休ませ、一年の健康を願うため
- 春の七草をたくさん食べるため
正解は 2 です。
👉 七草粥は、食べすぎた体をととのえる意味があります。
まとめ|お正月料理から日本の文化が見えてくる
お正月料理は、ただの「ごちそう」ではありません。
年越しそば・おせち料理・お雑煮・餅・七草粥には、新しい年を大切にむかえ、元気に過ごしたいという人びとの願いがこめられてきました。
年越しそばは、一年の苦労を区切り、新しい年を気持ちよく始めるための料理です。
おせち料理は、食べ物の名前や形、色に願いをこめた「祝う料理」です。
お雑煮と餅は、年神様をむかえ、その力をいただくための特別な食べ物でした。
そして七草粥は、体を休ませ、ふだんの生活に戻るための知恵です。
また、お雑煮の味や餅の形が地域によってちがうように、お正月料理に「一つの正解」はありません。土地の自然やくらし、家族の考え方によって、さまざまな形が生まれてきました。
大切なのは、
「なぜこの料理を食べるのだろう?」
「昔の人は何を願っていたのだろう?」
と考えてみることです。
お正月料理を通して見えてくるのは、日本の歴史や文化、そして人と人とのつながりです。
今年のお正月は、ぜひ食べ物の意味にも目を向けながら、日本の伝統を味わってみてください。
この記事を書いた人
西田 俊章(MOANAVIスクールディレクター/STEAM教育デザイナー)
公立小学校で20年以上、先生として子どもたちを指導し、教科書の執筆も担当しました。
現在はMOANAVIを運営し、子どもたちが「科学・言語・人間・創造」をテーマに学ぶ場をデザインしています。



