
シーソーに乗ると、軽い人でも重い人を持ち上げられることがあります。
不思議ですよね。力が強くなったわけでもないのに、どうしてそんなことができるのでしょう?
それを説明するのが「てこの原理」です。
支点・力点・作用点という3つのはたらきと、「力 × 距離」の関係を知ると、
はさみやドア、穴あけパンチなど、身のまわりの道具がどんなしくみで動いているのかがわかります。
この記事では、てこの基本からアルキメデスの発見、自由研究のアイデアまで、
楽しく学べるようにやさしく解説します。
てこの原理とは何か|小さな力で大きなものを動かすしくみをわかりやすく解説
もし、あなたが重い石を一人で持ち上げなければならないとしたら、どうしますか?
両手でがんばってもびくともしない……そんなときに使えるのが「てこの原理」です。
「てこ」とは、**支点(し点)**を中心にして、少しの力で大きな力を生み出すしくみのこと。
身のまわりではシーソー、ペンチ、くぎぬき、はさみ、スプーンなどに使われています。
これらはどれも、“てこ”の考え方で動いているのです。
小さな力で動く理由
てこの不思議は、「力のかけ方」と「支点からの距離」にあります。
たとえば、公園のシーソーを思い浮かべてください。
片方の人が遠くの端に座ると、軽い力でも反対側を持ち上げることができますね。
なぜかというと、支点から力を加える場所が遠いほど、力が大きくはたらくからです。
同じ重さでも、支点からの距離が2倍になれば、2倍の力を出せるというわけです。
これが、てこの原理の基本です。
つまり、「力 × 距離」という考え方でバランスが決まります。
これを理科では「モーメント(力のはたらきの大きさ)」といいます。
モーメントが左右でつり合っているとき、てこは動かずにピタッと止まります。
三つの点で動く「てこ」
てこが動くときには、つねに3つの点があります。
- 支点(し点):てこが回る中心になる点
- 力点(りき点):人が力を加える場所
- 作用点(さよう点):力が伝わって動く場所
たとえば、くぎぬきでは——
- くぎを抜くところが「作用点」
- 手で押す部分が「力点」
- てこの下にある金属の曲がった部分が「支点」
この3つの位置関係を変えることで、いろいろな道具が生まれました。
「軽い力で大きなものを動かしたい」「すばやく動かしたい」など、目的に合わせて支点の場所を変えているのです。
「てこ」は人類最古の機械
てこの原理は、古代ギリシャの科学者アルキメデスが理論として説明しました。
彼はこう言ったと伝えられています。
「わたしに支点を与えよ。そうすれば地球を動かしてみせよう。」
もちろん、地球を動かすことはできませんが、この言葉には科学の真理が隠れています。
「力と距離の関係を変えれば、世界を動かすことができる」――つまり、
人の知恵が自然の力を利用する方法を見つけたということなのです。
この考え方は、のちに滑車(かっしゃ)・ねじ・車輪などの発明にもつながっていきました。
てこは、まさに**人類が生み出した最初の“機械”**なのです。
てこを見つけてみよう
あなたの家の中にも、てこの原理を使った道具がたくさんあります。
たとえば——
- ドア(取っ手が遠いほど軽く開く)
- ペンチ(支点がねじでつながれている)
- ピンセット(小さな力でつまむ)
「重いものを軽くする」「小さな動きを大きくする」――
それがてこの力。
そして、てこの“しくみ”に気づける人は、科学者の目を持っている人です。
科学の発想は「観察」から生まれる
アルキメデスも、最初は遊びの中で気づいたといわれています。
石を棒で動かしているとき、「支える位置を変えると軽くなる」と感じたのです。
つまり、「なぜ?」という疑問が科学のはじまり。
てこの原理は、自然の中にある法則を見つけ出す力を教えてくれます。
クイズ1
次のうち、「てこの原理」が使われていないものはどれでしょう?
- ドアの取っ手
- ペンチ
- ストロー
正解は 3 です。
👉 ストローは空気の圧力を利用した道具で、てこのように支点を中心に動くしくみではありません。
てこの三つの点(支点・力点・作用点)をくわしく理解しよう
てこの原理を正しく理解するためには、「三つの点」のはたらきをしっかり区別することが大切です。
それぞれの点がどんな役割をもっているのかを頭の中でイメージしてみましょう。
支点・力点・作用点の関係をイメージしよう
まずは、てこが動くときに登場する三つの点をおさらいします。
1️⃣ 支点(し点):てこが回る中心の点。動かない「軸」のような役割。
2️⃣ 力点(りき点):人が力を加える場所。ここから力が伝わっていく。
3️⃣ 作用点(さよう点):てこが物を動かしたり、押したりする場所。
この三つの点を結んで考えると、てこは回転する棒のしくみだとわかります。
たとえば、公園のシーソーなら——
- 真ん中が「支点」
- 人が座る場所が「力点」
- 反対側で持ち上げられる場所が「作用点」
となります。
力と距離の関係を「つり合い」で考えよう
てこが左右でつり合うとき、そこには力のバランスが生まれています。
このバランスを数であらわしたのが、理科でよく出てくるてこのつり合いの式です。
力1×距離1=力2×距離2
これは、「力 × 支点からの距離」が左右で同じになると、てこが動かない(つり合う)という意味です。
ここで出てくる「力 × 距離」を、**モーメント(力のはたらきの大きさ)**と呼びます。
モーメントとは、力そのものよりも「どれだけ回そうとするか」を表す考え方です。
力が小さくても、支点からの距離が長ければ大きなモーメントになります。
たとえば、重い石を棒で動かすとき、支点から遠い場所を押すほど軽い力で動かせる――
それが「てこの原理」なのです。
てこのつり合いを感じる日常の例
家の中にも、てこのつり合いが使われているものはたくさんあります。
- はさみ:真ん中のねじが支点、持つところが力点、刃先が作用点。左右の長さが違うことで少ない力で切れる。
- ドアノブ:支点は蝶番(ちょうつがい)、力点は取っ手、作用点はドアの先。取っ手が遠いほど軽く開く。
- ペンチ:中心のねじが支点、手で握る部分が力点、はさむ部分が作用点。力が集中する仕組み。
これらを思い浮かべると、てこが「力と距離をうまく交換している道具」だとわかります。
てこは“力の貯金箱”のようなものなのです。
てこがつり合わないとき
もし力のバランスがくずれると、てこはどちらか一方に回転します。
それは「力のモーメント」が左右でちがうからです。
・支点から遠い方にある小さな力
・支点の近くでかけた大きな力
この2つが同じモーメントをもつときだけ、てこはピタッと静止します。
それが「つり合いの条件」です。
ことばで考える「力のモーメント」
モーメントの単位は、力をニュートン(N)、距離をメートル(m)であらわして「N・m(ニュートンメートル)」といいます。
でも、数字で覚えるよりもまず、**「遠くを押すと軽くなる」**という感覚を大切にしましょう。
たとえば、長いスプーンで缶のふたを開けるとき、
支点(ふち)から遠い場所を押すと、軽い力でふたが持ち上がります。
支点に近い場所を押すと、ぐっと力が必要です。
これは、てこが「力」と「距離」を上手に入れ替えているからです。
見えないところにも“てこ”がある
てこは棒や道具だけではありません。
人間の体の中にも、てこのしくみが隠れています。
たとえば、腕を曲げるときのひじが支点、
**上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)**が力点、
手のひらが作用点です。
体の動きそのものが、てこのしくみで成り立っているのです。
このように考えると、てこは「生きている機械」とも言えるかもしれませんね。
クイズ2
次のうち、てこの三つの点(支点・力点・作用点)の関係が正しいものはどれでしょう?
- 力点が遠いほど、軽い力で動かせる
- 支点が真ん中にあると、動かない
- 作用点は、てこの回る中心のこと
正解は 1 です。
👉 支点から遠いほどモーメントが大きくなり、軽い力でも大きな力を出すことができます。
てこの原理が使われている道具の例|日常生活の中のてこを見つけよう
身のまわりをよく観察してみると、「てこの原理」で動いている道具がたくさんあります。
力の向きや支点の位置を工夫することで、どんな人でも軽い力で作業できるようになっているのです。
ここでは、てこの三つのタイプに分けて、道具を言葉でイメージしてみましょう。
支点がまん中にある「第1種てこ」
いちばん基本的なタイプが「第1種てこ」。
支点(し点)がまん中にあり、力点(りき点)と作用点(さよう点)が反対側にあります。
シーソーやはさみがその代表です。
たとえば、はさみを思い浮かべてください。
ねじの部分が「支点」、手で握る部分が「力点」、紙を切る刃先が「作用点」です。
手で少しの力を加えるだけで、刃先には何倍もの力が伝わり、厚い紙でもスパッと切ることができます。
このタイプは、「動く方向が反対になる」のが特徴です。
はさみやペンチを握ると、手は広がる方向に力を入れても刃は閉じる方向に動きます。
まさに“力の向きを変えるてこ”です。
作用点がまん中にある「第2種てこ」
次は、第2種てこ。
支点がいちばん端にあり、力点がその反対側、作用点が真ん中にくるタイプです。
特徴は、軽い力で重いものを動かせること。
身近な例として「穴あけパンチ」を見てみましょう。
パンチを机の上に置いたとき、下にある金属の軸が支点、
あなたが手で押すハンドルの先が力点、
紙を押し抜く刃の部分が作用点です。
押す力が小さくても、支点から遠い位置で力をかけるため、
下の刃には何倍もの力が集まります。
厚めの紙でも、指先の力だけで簡単に穴を開けられるのはこの原理のおかげです。
第2種てこは「力を大きくしたいとき」に使われるしくみです。
くるみ割り器、栓抜きなど、“押す・はさむ・持ち上げる”動作が軽くなる道具はこの仲間です。
力点がまん中にある「第3種てこ」
最後は、第3種てこ。
支点が端にあり、力点がそのすぐ近く、そして作用点が一番遠くにあります。
このタイプは、速さと動きやすさを重視したてこです。
身近な例として「トング」を考えてみましょう。
トングの根本が支点、指でつまむ部分が力点、
先の食べ物をつかむ部分が作用点です。
支点に近い場所で力を加えるため、力は小さくなりますが、
そのかわりに先端が大きく動くのが特徴です。
ピンセットも同じしくみです。
わずかに指を動かすだけで、先端がすばやく動きます。
つまり、「速く、細かく、正確に動かしたい」ときに使われるのが第3種てこです。
三つのてこのちがいを整理しよう(言葉で覚えるまとめ)
| 種類 | 支点・力点・作用点の位置 | 特徴 | 代表的な道具 |
|---|---|---|---|
| 第1種てこ | 支点がまん中 | 力の向きを変える | はさみ・シーソー |
| 第2種てこ | 支点が端、力点が遠い | 小さい力で動かせる | 穴あけパンチ・くるみ割り器 |
| 第3種てこ | 支点が端、力点が近い | 先が速く動く | トング・ピンセット |
どの種類も、「力 × 距離」という関係が基本です。
支点からの距離が長いほど、少ない力で大きな動きを作ることができます。
人間の暮らしの中で、**てこの原理は“作業を楽にする知恵”**として生き続けているのです。
クイズ3
次のうち、第2種てこの例として正しいものはどれでしょう?
- はさみ
- 穴あけパンチ
- トング
正解は 2 です。
👉 穴あけパンチは、支点が端にあり、力点が遠くにある第2種てこ。
軽い力で大きな力を生み出せるのが特徴です。
てこの計算方法とモーメントの公式|力と距離の関係を理解しよう
前の章で学んだように、てこの動きは「支点・力点・作用点」の三つの位置で決まります。
でも、それがどのくらいの力でつり合うのかは、どうやって考えたらいいのでしょうか?
その答えを教えてくれるのが、「モーメント」という考え方です。
力と距離がつり合うとき、てこは止まる
てこが動かずにピタッと止まっている状態を「つり合っている」といいます。
このとき、左右の力が同じ大きさでなくても、支点からの距離によってバランスを取っているのです。
たとえば、公園のシーソーで体の重さが違う2人が乗るとき。
軽い子が支点から遠くに座れば、重い子とつり合うことがありますよね。
それは、支点から遠いほうが「回そうとする力(モーメント)」が大きくなるからです。
モーメントの公式
この関係を数式であらわすと、次のようになります。
力1×距離1=力2×距離2
これは「力 × 支点からの距離(てこの腕の長さ)」が左右で同じなら、
てこが動かない、つまりつり合っているという意味です。
たとえば、
- 左側に10ニュートンの力を、支点から1メートルの距離でかける
- 右側に5ニュートンの力を、支点から2メートルの距離でかける
このとき、どちらのモーメントも10(10×1=5×2)。
左右のモーメントが等しいので、てこはちょうど水平を保ちます。
てこの「力のモーメント」を想像してみよう
数式で考えるとむずかしそうですが、頭の中でイメージしてみましょう。
長い棒のまん中に支点を置き、
片方を指で軽く押すと、反対側がすぐに持ち上がりますね。
もし支点を押す側に近づけると、同じ力ではもう持ち上がらなくなります。
これは「距離が短くなるとモーメントが小さくなる」からです。
つまり、同じ力をかけても、支点に近いとてこは“効きにくく”なるわけです。
逆に、支点から遠い場所を押すと、わずかな力でぐっと持ち上がります。
これがてこのすごいところ。
力そのものを増やしているわけではなく、力のはたらく“距離”を利用しているのです。
支点の位置を動かすと力のバランスが変わる
てこの支点を少し動かすだけで、必要な力が大きく変わります。
たとえば、分厚い冊子を開こうとするとき、
しっかり持ち上げようと思えば、ページの端(支点から遠い場所)に指をかけると軽く開けます。
逆にページの真ん中を押さえても、ほとんど動きません。
このように、てこの支点の位置は「力の有利・不利」を決める重要なポイントです。
だから、道具を設計する人たちは、支点をどこに置くかを何度も実験して決めているのです。
モーメントの単位を知っておこう
モーメントは「力 × 距離」で表されるので、
単位は ニュートンメートル(N・m) といいます。
たとえば、10Nの力で2mの距離を押すなら、モーメントは20N・m。
でも、計算よりも大事なのは「感覚」です。
遠くを押すと軽い、近くを押すと重い。
この“体で感じる法則”こそ、てこの本質です。
日常にあるモーメントの工夫
・ドアの取っ手がいつも端についているのは、支点(蝶番)から遠いほど軽く開けられるから。
・レンチ(工具)の柄が長いのは、同じ力でより大きなモーメントを作るため。
つまり、モーメントの考え方を知ると、暮らしの中の“力の工夫”が見えるようになります。
理科の公式は、ただ覚えるものではなく、生活を理解するためのことばなのです。
クイズ4
つり合ったてこを動かすには、どんな変化を加えればよいでしょう?
- 支点を遠くへずらす
- 支点に近い場所を強く押す
- 同じ場所を軽く押す
正解は 2 です。
👉 支点に近い場所ではモーメントが小さいため、強い力を加えなければ動きません。
距離と力の関係を変えることで、てこのバランスがくずれ、動き始めます。
アルキメデスとてこの原理の発見|科学の歴史を変えた観察力
てこの原理は、だれかが突然思いついた発明ではありません。
2000年以上も前の古代ギリシャで、アルキメデスという科学者が、
日常の中での「ふしぎ」に気づいたことから始まりました。
観察から生まれた発見
ある日、アルキメデスは港で船を修理している人たちを見ていました。
大きな木の棒を使って重い石を持ち上げている様子を見て、こう考えたのです。
「なぜ、棒の端を押すと、重いものが軽く動くのだろう?」
そこから彼は、力のはたらく距離が重要だということを見抜きました。
支点の位置を少し変えるだけで、必要な力が変わる。
そして何度も実験をくり返し、ついに「てこの法則」を見つけたのです。
「我に支点を与えよ」の意味
アルキメデスの有名な言葉に、
「わたしに支点を与えよ。そうすれば地球を動かしてみせよう。」
というものがあります。
もちろん、実際に地球を持ち上げることはできません。
しかしこの言葉は、「理屈がわかれば、どんな大きな力でも扱える」という科学の精神をあらわしています。
それまで人々は、力は“強い人が出すもの”だと思っていました。
でもアルキメデスは、知恵があれば力を超えられることを証明したのです。
アルキメデスが発見した「てこの法則」
アルキメデスは、棒の両側におもりをつけ、支点の位置を少しずつずらしながら観察しました。
すると、ある法則が見えてきます。
- 支点から遠いほうは、小さいおもりでもよく動く。
- 支点に近いほうは、大きな力が必要。
この実験を通して、彼は「力と距離の関係(モーメント)」という考え方をまとめました。
これは、現代の物理学でも使われている重要な原理です。
「てこ」は人類が作った最初の“機械”
アルキメデスは、てこを「最も単純で、最も基本的な機械」と考えました。
彼が示した「単純機械」の中には、てこのほかに滑車・斜面・車輪・ねじ・くさびなどがあります。
どれも「力のはたらき方を変える道具」です。
たとえば、滑車は力の方向を変え、斜面は力を分散させます。
てこは、その中でも力と距離を交換するしくみとして、人間の暮らしを大きく変えました。
アルキメデスの発想は、後のエンジニアや科学者たちの出発点となり、
機械・建築・物理学の基礎へと発展していきました。
科学者のまなざし:疑問をもつ力
アルキメデスが偉大なのは、発見したことだけではありません。
「なぜ?」と疑問を持ち、「確かめよう」と行動した姿勢こそが、科学の原点です。
彼は実験を通して、
- 観察する
- 仮説を立てる
- 結果を比べる
という今でも通じる科学の手順を確立しました。
この考え方は、現代の理科の授業でも同じです。
たとえ身の回りの小さな出来事でも、
「どうしてこうなるのだろう?」と考えることで、新しい発見につながります。
アルキメデスの精神を受け継ぐ科学
アルキメデスの研究は、2000年以上たった今も生きています。
建物のクレーン、橋の構造、ロボットの関節など、
てこの原理は現代の技術のいたるところに使われています。
つまり、私たちはアルキメデスの発見の上に暮らしているといえるのです。
科学の歴史は、ひとつの疑問がつぎの世代へ受け継がれる物語でもあります。
クイズ5
アルキメデスが「てこの原理」を見つけるきっかけとなったのは、どんなことだったでしょう?
- 重い石を棒で動かす人を見て不思議に思った
- 海の波の動きを観察していた
- 星の動きから力の法則を考えた
正解は 1 です。
👉 アルキメデスは、港で重い石を棒で動かす人を見て「なぜ軽く動くのか?」と疑問をもち、
支点と距離の関係に気づいたことが、てこの発見のきっかけでした。
てこの原理を使った自由研究アイデア|家でできる実験とまとめ方
てこの原理は、家の中にある身近な道具だけで確かめることができます。
特別な器具や危険な道具を使わなくても、
少しの工夫で「小さな科学者」になれるのです。
ここでは、てこの原理を使った実験のアイデアを紹介します。
自由研究や夏休みの課題にもおすすめです。
準備しよう!身のまわりの材料でOK
まず、準備するものを見てみましょう。
どれも家にあるか、100円ショップなどで簡単にそろいます。
- ものさし(30cmくらい)
- 消しゴム(支点に使う)
- クリップやペットボトルキャップ(おもりのかわり)
- ひも(おもりをぶら下げるときに使う)
- メモ用紙・鉛筆(観察記録用)
これだけで、立派な「てこの実験装置」ができます。
実験① てこのつり合いを確かめよう
【目的】
支点からの距離によって、てこのバランスがどう変わるかを調べる。
【手順】
- 消しゴムを机の上に置き、その上にものさしを横にのせる(消しゴムが支点)。
- ものさしの左右にクリップやキャップなどのおもりを置く。
- 左右の距離を少しずつ変えて、どんなときに水平になるか観察する。
【考察】
左右の距離が変わると、つり合う位置も変化します。
おもりが軽いほうは支点から遠く、重いほうは支点の近くに置くとバランスがとれるはずです。
この関係が「力 × 距離=力 × 距離」、つまりモーメントの法則です。
実験② 支点の位置を変えて力の大きさを比べよう
【目的】
支点を動かすと、同じ力でもどれくらい動きやすさが変わるかを確かめる。
【手順】
- ものさしを消しゴムにのせ、片方を指で押してみる。
- 支点を少しずつ端のほうにずらし、同じ力で押して動きやすさを比べる。
【観察】
支点が押す側に近いほど、動かすのがむずかしくなります。
逆に、支点から遠いほうを押すと、軽い力で動かすことができます。
てこの「距離が長いほど有利」という性質を体感できます。
実験③ いろいろな道具の“てこ度”を調べよう
【目的】
身近な道具にどんな「てこのしくみ」が使われているかを分類する。
【手順】
- 家の中から、てこのように動く道具をいくつか選ぶ。
(例:はさみ・トング・穴あけパンチ・ピンセットなど) - 支点・力点・作用点を言葉で書き出してみる。
- 「支点が真ん中?端?」「どのタイプのてこ?」を整理して表にまとめる。
【発展】
動きの目的によって、てこの種類がちがうことに気づくはずです。
“軽く動かすためのてこ”なのか、“速く動かすためのてこ”なのかを観察して分類してみましょう。
まとめ方のコツ|科学的に書くポイント
自由研究は、ただ「やってみた」だけでは終わりません。
観察したことを順序立てて書くと、科学のレポートになります。
1️⃣ 仮説を立てる
「支点を遠くにすると軽く動くと思う」など、自分の考えを先に書く。
2️⃣ 実験の方法を書く
使った道具、やり方、測った距離などをくわしく説明。
3️⃣ 結果をまとめる
気づいたことを表やグラフで整理。たとえば、距離と力の関係を線で示す。
4️⃣ 考察する
「なぜこの結果になったのか?」を自分のことばで書く。
他の条件を変えたらどうなるか、次の実験につながるような意見もよいです。
さらに発展!てこの応用をさがしてみよう
・ペンチやパンチだけでなく、ドア・ハサミ・トングなどの構造も比べてみよう。
・工作が得意なら、わりばしで「ミニクレーン」や「ピンセットロボット」を作るのもおすすめ。
・スマホやゲーム機のボタンの中にも、てこのような構造があることを調べてみよう。
てこの原理は「物理」だけでなく、「技術」や「デザイン」にもつながっています。
力の伝わり方を考えることは、“ものづくり”の第一歩でもあるのです。
おさらいクイズ|てこの原理・三つの点・モーメントの理解をチェック
これまで学んだ「てこの原理」の知識をまとめてチェックしてみましょう。
きみはどれだけ覚えているかな?
クイズ①
てこの原理で「支点」とは、どんな役割をもつ部分でしょう?
- 力を加える場所
- てこが回る中心の場所
- 動かしたい物がある場所
正解は 2 です。
👉 支点は、てこが回転する中心の点。力点や作用点の基準になる大切な部分です。
クイズ②
「はさみ」はどの種類のてこにあたるでしょう?
- 第1種てこ
- 第2種てこ
- 第3種てこ
正解は 1 です。
👉 はさみは支点(ねじ)が真ん中にある第1種てこ。左右の力の向きを反対に変える働きがあります。
クイズ③
穴あけパンチが軽い力で紙に穴をあけられるのはなぜ?
- 支点が力点のすぐ近くにあるから
- 支点から力点が遠いから
- 支点が真ん中にあるから
正解は 2 です。
👉 支点から遠い場所を押すことで、力のモーメントが大きくなり、小さな力で強い押し込みができます。
クイズ④
トングやピンセットのように、すばやく先を動かすためのてこはどの種類?
- 第1種てこ
- 第2種てこ
- 第3種てこ
正解は 3 です。
👉 支点が端にあり、力点がその近く、作用点が遠くにあるタイプ。動きの速さを生み出します。
クイズ⑤
てこのつり合いの式として正しいものはどれでしょう?
- 力 × 距離 = 力 × 距離
- 力 ÷ 距離 = 力 ÷ 距離
- 力 + 距離 = 力 + 距離
正解は 1 です。
👉 左右のモーメント(力×距離)が等しいとき、てこはつり合って動かなくなります。
クイズ⑥
アルキメデスがてこの原理を発見したきっかけは何だったでしょう?
- 重い石を棒で動かす人を見たこと
- 海で波の力を測ったこと
- 星の動きを観察したこと
正解は 1 です。
👉 港で作業する人を見て「なぜ軽い力で動くのか?」と考えたことから、支点と距離の関係を発見しました。
まとめ|てこの原理は力と距離のバランスを学ぶ科学の基本
重いものを軽く動かす。
この、あたりまえのように見える動きの中には、自然の法則がかくれています。
それが「てこの原理」です。
てこは、支点を中心に力と距離のバランスを変えることで、
同じ力でも結果を変えることができる――そんな“知恵の道具”です。
力と距離を見つめる目を育てよう
力1×距離1=力2×距離2
このシンプルな式の中には、人間が長い時間をかけて見つけてきた科学の考え方がつまっています。
重い石を棒で動かしたアルキメデスも、
ドアを軽く開けようとする私たちも、
実は同じ法則を使っています。
てこの原理は、力そのものを強くする魔法ではありません。
力のはたらく“場所”を工夫することで、結果を変える技術なのです。
科学は「観察」からはじまる
アルキメデスのように、「なぜ?」と感じたことをそのままにしない。
目で見て、考えて、ためしてみる。
この流れが、科学のいちばん大切な姿勢です。
あなたがドアを開けるとき、穴あけパンチを使うとき、
「ここが支点だ」「ここに力をかけている」と意識してみてください。
それだけで、身のまわりの世界がまるで“実験室”になります。
現代の中にも生きるてこの原理
てこの考え方は、今でもいろいろな分野で使われています。
橋やクレーン、ロボットアーム、自動ドアなど、
「力と距離の関係」を理解することで、
より安全で、正確に動くしくみが作られています。
つまり、てこの原理は昔の知恵ではなく、未来の科学にもつながる考え方なのです。
力の仕組みを感じる学びへ
最後にもう一度、てこの原理の本質をまとめましょう。
- 支点・力点・作用点の3つの関係で動く
- 力と距離がつり合うと動かない
- 支点から遠いほど、少ない力で大きな動きができる
- 科学の出発点は「なぜ?」という気づき
てこを理解することは、力の世界を読み解く第一歩です。
見えない力のはたらきをことばで説明できるようになると、
きみの中の“科学の目”が育ちます。
この記事を書いた人
西田 俊章(MOANAVIスクールディレクター/STEAM教育デザイナー)
公立小学校で20年以上、先生として子どもたちを指導し、教科書の執筆も担当しました。
現在はMOANAVIを運営し、子どもたちが「科学・言語・人間・創造」をテーマに学ぶ場をデザインしています。



