対話による合意形成

対話とは

対話による合意形成について説明するにあたり、まず「対話(dialogue)」とは何かについて明らかにしなければなりません。

ボーム(2007)は対話について、次のように述べています。

意味をより深く理解するには、言葉の由来を知ることが役立つ場合が多い。「ダイアローグ(dialogue)」はギリシャ語の「dialogos」という言葉から生まれた。「logos」とは、「言葉」という意味であり、ここでは「言葉の意味」と考えてもいいだろう。「dia」は「~を通して」という意味である――「二つ」という意味ではない。対話は二人の間だけでなく、何人の間でも可能なものなのだ。対話の精神が存在すれば、一人でも自分自身と対話できる。この語源から、人々の間を通って流れている「意味の流れ」という映像やイメージが生まれてくる。これは、グループ全体に一種の意味の流れが生じ、そこから何か新たな理解が現れてくる可能性を伝えている。

(ボーム,2007:44-45)

対話の意味

この定義により、一般的に用いられている「対話」の意味は広がり、教育においては教室での協同的な対話という形態が浮かび上がってきます。

また、対話の対象について「科学者も似たような「対話」を、自然相手に行っている」(ボーム,2007:39)とあるように、人間に限定されず、自然との対話も想定されます。

これはまさに理科における学習の心構えにほかなりません。 

子ども同士の対話

教室内で共に学習する子ども同士がもつ枠組みはそれぞれ異なります。

それに加え、子どもが自然と対話する中で変容させる枠組みも、同じ自然を見つめていたとしてもそれぞれ異なります。

こうしたずれの中で対話によって学習を進めることは、お互いの枠組みの中間に位置する枠組みを選択することではなく、どちらかの枠組みに引きずられることでもなく、「新たなものを一緒に創造する」(ボーム,2007:38)ことにつながります。

対話による合意形成

対話による合意形成はまさに科学のプロセスです。

科学を、科学的な用語によって権威付けられた特別なもの、客観的な事実であるという地平から、自らの言葉で、自らのイメージで更新していくものであるというように転換していくことが重要です。

この転換によってこそ、子どもに実感を伴った理解を促すことができるのです。 

授業における対話

授業においては、対話によって、ある概念の定義について合意形成(コンセンサス)を行うことがめざされます。

このようにして構築された概念は、「科学的」であるといえます。

子どもにとっての実感を伴った本物の科学は、今子どもたちの手によって生み出された概念なのです。

概念は更新され続ける

こうした概念に対して、教師をはじめとする大人が「誤った概念である」とか「幼稚な考え方である」等として切り捨てることは、子どもの学びの可能性を摘み取ることになります。

子どもが対話によって合意形成した概念は、そこで完成され固定されるものではなく、これからも修正され、更新され続けるものだからです。

科学的であること

大人がいう科学もまた同様です。

現在の段階で広く合意形成されている「科学的であること」は、今後の発見によって修正されたり更新されたりするものなのです。

子どもが合意形成した概念が、「科学的であること」に方向性として向かうものであるかどうかを判断することが重要なのです。

対話によって概念を構築する

授業において対話によって合意形成を行うためには、教師自身がもつ概念がどのように獲得されたものなのかをメタ認知しなければなりません。

その概念が、過去自分が受けた授業において教師によって埋め込まれた、表面的な知識であるかもしれないのです。

教師もまた、子どもとともに対話によって自らの概念を見つめ直さなければなりません。

自らがもつ概念に子どもを引き寄せるのではなく、対話による合意形成によって概念を構築するという姿勢をもつことが重要なのです。 
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