
次期学習指導要領と「情報活用能力」抜本強化
文科省・指導体制改善プランの全貌
文部科学省は、次期学習指導要領に向けて 「情報活用能力の抜本的向上」 を大きな柱に据えています。
2025年9月に発表された 「指導体制改善プラン」 は、これからの教育現場に直結する内容であり、教育関係者にとっては必ず押さえておきたい動きです。
本記事では、
- 情報活用能力の定義と位置づけ
- 文科省「指導体制改善プラン」の3本柱とロードマップ
- 学校現場に及ぶ影響と今から準備すべきこと
を、教育関係者向けにわかりやすく整理して解説します。
情報活用能力とは?|次期学習指導要領での定義と教育改革の背景
1. 定義と構成
現行学習指導要領では、情報活用能力 を次のように定義しています。
「情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり、自分の考えを形成したりするために必要な資質・能力」
この力は以下の3つの観点から整理されています。
- 情報活用の実践力:検索・分析・表現・協働など、実際に情報を使う力
- 情報の科学的理解:情報技術やシステムの仕組み、論理的思考
- 情報社会に参画する態度:モラル、セキュリティ、責任を伴う情報利用
2. 現状の課題
- 教員間での指導力格差
- 地域ごとのICT環境整備の差
- 総合的な学習や探究活動との接続が十分ではない
3. 背景にある社会的要請
生成AIやデータ活用が急速に進展するなか、
- 「情報を操作できる」だけでなく 「情報を判断し活用する」 力
- フェイク情報やSNSリスクに対応できる 情報モラル・セキュリティ
- データを読み解き、論理的に考える プログラミング的思考
が不可欠になっています。
文科省「情報活用能力の抜本的向上を支える指導体制改善プラン」とは
1. 策定の背景
- 次期学習指導要領の改訂を待たず、2026年度から先行整備 を開始
- 2028年度までに 中学校技術分野で臨免・免許外ゼロ を目指すKPIを設定
- 教員研修・教材開発・人材確保を包括的に進めることで、全国的に均質な指導体制を実現
2. プランの目的
- 教員が安心して情報教育を指導できる体制をつくる
- 学習者用教材・実践事例を整備し、授業デザインを容易にする
- 外部人材やICT支援を活用し、学校現場の負担を軽減する
指導体制改善プランの3本柱|教育現場が知っておくべき要点
1. 教員研修動画・教材コンテンツの充実
- 授業実践動画や研修教材を国主導で体系的に整備
- 教員・指導主事が そのまま使える研修・教材セット を提供
- 効果検証を重ね、次期要領対応の教材群に発展
2. 効果的・効率的な情報教育の指導体制確立
- 学習者用教材+実践事例 の全国配布
- 中学技術科における 外部人材活用・複数校指導・遠隔授業 の制度化
- ICT支援員や校内スタッフ配置の支援
- 地域企業人材や民間派遣の活用(税制面の支援検討を含む)
3. 教員免許・資格制度の改善
- 免許法認定講習のオンライン化、内容改革
- 免許取得可能な大学数の拡大
- 特別免許状・特別非常勤講師の活用促進
- 2028年度までに臨免・免許外ゼロ を目標化
ロードマップでみる教育改革|2025〜2028年度に何が変わるのか
- 2025年度:各自治体が「中学技術 指導体制改善計画」を策定
- 2026年度:研修動画・教材の全国配信開始、免許法認定講習改革スタート
- 2027〜2028年度:効果検証を踏まえつつ展開拡大。2028年度には臨免・免許外ゼロを達成
- 2029年度以降:自治体ごとに多様な指導体制モデルを確立し、地域特性に応じた実践へ
学校現場への影響と対応|情報活用能力強化で変わる指導と運営
1. 教員研修・校内研究の変化
- 国の教材を活用し、校内研修を体系化 できる
- 指導主事やICT担当教員の負担が軽減
2. 授業設計の効率化
- 学習者用教材や事例集を使うことで、総合的な学習の時間に「情報の領域」を組み込みやすくなる
- 再現性のある授業モデルが蓄積される
3. 人材確保の多様化
- 特別免許・非常勤講師の平準化活用
- 複数校指導や遠隔授業が制度的に認められる
4. 学校経営への影響
- ICT支援員や外部人材をどう受け入れるかが校務マネジメント課題に
- 教育委員会との連携強化が必須
教育関係者が準備すべきこと|校内・自治体で今からできる4つのアクション
- 校内研修設計
- 動画教材を活用した研修サイクルを構築
- ICTリーダー教員を育成
- 人材確保と連携
- 地域企業・大学との協働体制を整備
- 特別免許状・非常勤講師活用の準備
- 教材活用と授業試行
- 総合的な学習に「情報の領域」を試行的に導入
- 既存の探究テーマに情報活用プロセスを組み込む
- 評価設計の見直し
- 成果物だけでなく 情報収集・分析の過程を評価
- ポートフォリオやルーブリックの導入検討
今後の展望|情報活用能力と指導体制改革がもたらす教育の未来
- 学校・自治体マネジメントの変化:人材・ICT環境の統合的マネジメントが必須
- 教科横断的な情報教育の定着:総合的な学習と教科の両輪で情報活用を育成
- 地域・保護者の巻き込み:学校だけでなく、社会全体で情報リテラシーを育む構想へ
まとめ
「情報活用能力」は、次期学習指導要領における 基盤的リテラシー です。
文科省が打ち出した「指導体制改善プラン」は、単なる教育施策ではなく、学校経営・教員育成・地域連携を巻き込む大規模な改革。
教育関係者にとって重要なのは、
- 国の施策を待つのではなく、校内や自治体で先行準備を始めること
- 外部人材や保護者を含めたネットワークを築き、実効性ある教育をデザインすること
未来を生きる子どもたちに必要な力を育むために、今から動き出すことが求められています。
記事を書いた人

西田 俊章(Nishida Toshiaki)
STEAM教育デザイナー / MOANAVIスクールディレクター
理科・STEAM教育の専門家として、20年以上にわたり子どもたちの学びに携わる。文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』の著者であり、TVやラジオで教育解説の経験ももつ。「体験×対話」の学びを大切にし、子どもたちが楽しく学べる環境を提供している。
📚 経歴・資格
✅ 文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』著者
✅ 元公立小学校教員(教員歴20年)
✅ 横浜国立大学大学院 教育学研究科 修士(教育学)
✅ TVK『テレビでLet’s study』理科講師として出演
✅ Fm yokohama『Lovely Day』でSTEAM教育を解説