手書き vs タイピング:子どもにとって“良い書き方”って?

最近の子どもたちは、スマホやタブレットには慣れていても、紙に「書く」ことを苦手に感じる子が増えています。
でも、“書くこと”には学びにとって大きな意味があります。では、手で書くのとタイピングで書くのとでは、学びにどんな違いがあるのでしょうか?

今日は、研究結果やMOANAVIでの実践を交えながら、「手書きとタイピングのメリット・デメリット」、そして保護者の方にできる声かけのヒントをお伝えします。


研究が示す「手書き」の強みとは?

アメリカ・プリンストン大学とUCLAの研究チームによる有名な実験(Mueller & Oppenheimer, 2014)では、大学生を以下の2グループに分け、授業の内容を記録させました:

  • グループA:ノートパソコンでタイピングして記録
  • グループB:手書きのノートで記録

その後、講義内容に関するテストを実施したところ──

手書きノートで記録した学生の方が、内容理解の点で高得点を取ったのです。
なぜかというと、タイピングでは講義をほぼ「そのまま写す」ことが多く、深く考えずに情報を処理してしまう傾向があったからです。
一方、手で書くときには、一度自分の頭でかみ砕いてからまとめて記録する必要があるため、理解が深まりやすいというわけです。


追試実験でも同じ傾向

この研究ではさらに、「タイピングでも要約すれば効果が出るのでは?」という仮説のもとで、別のグループにタイピングで要約記録をさせてみました。

結果は──

それでも 手書きで記録した学生の方が高得点を出す傾向がありました。
つまり、「要約する」という認知的な努力があっても、手書きの方が記憶や理解には有利という結果が出たのです。


タイピングにも強みがある

もちろん、タイピングにもメリットはあります。特に、

  • スピードが速く、大量の情報を記録できる
  • 修正が簡単で、清書や共有がしやすい
  • 表現の自由度が高く、アイデア出しに向いている

など、デジタルならではの利点もたくさんあります。

MOANAVIでも、必要に応じてアプリやデジタル教材を活用していますが、目的に応じた“使い分け”がとても大切だと感じています。


MOANAVIでの実践|小学生には「手書き」が力になる

MOANAVIでは、日々の学習においてプリントアウトした教材に手書きで取り組むスタイルを大切にしています。私はICTが苦手なわけでも毛嫌いしているわけでもなく、ペーパーレスの時代には逆行しているようなのですが、教育者としてどちらも実践してみたところ、プリントアウトの必要性を強く感じています。

特に小学生のうちは、紙に書いて、線を引いて、まとめたり丸をつけたりすることや、余白に図や絵を描きながら考えることが、学びの定着につながっています。

さらに、手書きのプリントがファイルにどんどん溜まっていく様子は、
「自分、こんなに頑張ったんだ!」という目に見える成果として、子どもたちの自信やモチベーションになっています。


保護者の方へ|おうちでできる声かけや工夫

お子さんが「書くのがイヤ」「タイピングの方が早いし楽」と感じていても、無理に手書きを強いると、かえって学びが後ろ向きになってしまうことも。

だからこそ、「どうやって書きたいか」を自分で選ばせてあげることが、学びの第一歩です。

声かけのヒント

  • 「今日は手で書く?それともパソコンでまとめてみる?」
  • 「あとで見返すとき、どっちが読みやすいかな?」
  • 「図は手で書いて、文章はタイピングでもいいかもね」

工夫のアイデア

  • 好きなノートや色ペンを自由に選ばせる
  • 書いた内容をスマホで撮って、デジタル保存もしてみる
  • 「文章はタイピング、図は手書き」など、ハイブリッドにしてみる
  • 書いたことを家族に説明する習慣を作る(理解の確認に◎)

まとめ

  • 手書きは「考える・理解する・記憶する」学びに効果的
  • タイピングは「整理する・共有する・表現する」学びに向いている
  • 小学生には、手で書いて、手ごたえを感じながら学ぶ体験が特に効果的
  • 保護者は、学び方の“選択肢”を与えてあげることが大切

学び方に「正解」はありません。
でも、「自分に合った方法を、自分で選べる力」は、これからの時代に欠かせない力。
MOANAVIでは、そんな力を育てる学びを、これからも大切にしていきます。

記事を書いた人

西田 俊章(Nishida Toshiaki)

STEAM教育デザイナー / 株式会社MOANAVI代表取締役

理科・STEAM教育の専門家として、20年以上にわたり子どもたちの学びに携わる。文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』の著者であり、TVやラジオで教育解説の経験ももつ。「体験×対話」の学びを大切にし、子どもたちが楽しく学べる環境を提供している。

📚 経歴・資格
✅ 文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』著者
✅ 元公立小学校教員(教員歴20年)
✅ 横浜国立大学大学院 教育学研究科 修士(教育学)
✅ TVK『テレビでLet’s study』理科講師として出演
✅ Fm yokohama『Lovely Day』でSTEAM教育を解説


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