小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域」が加わる?保護者が知っておきたい新しい学び

いま、国の教育改革において「情報教育」が大きなテーマとなっています。
特に注目されているのが、次期学習指導要領の中で 小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を位置づける という案です。

「情報」と聞くと「パソコン操作やプログラミングの授業?」とイメージされる方も多いかもしれません。
しかし実際には、情報の領域は子どもたちの 調べる力・判断する力・表現する力・情報モラル などを総合的に育てることをねらいとしており、単なるITスキルの習得にとどまりません。

本記事では、小学生の保護者の方に向けて、総合的な学習の時間に「情報の領域」が加わる背景やねらい、授業のイメージ、家庭でできるサポートの方法まで、わかりやすく解説します。


なぜ今「情報教育」が必要なのか?|小学生に求められる情報活用能力

現代の子どもたちは、私たちが子どもだった頃とは比べものにならないほど、豊富な情報に囲まれています。スマートフォンやタブレット、YouTubeやSNS…。小学生でも調べものをネットで済ませたり、動画を発信する場面に出会ったりする時代になりました。

こうした環境の中で大切になるのが「情報活用能力」です。
情報活用能力とは、単なるパソコンやタブレットの操作スキルではなく、次のような力を総合したものです。

  • 必要な情報を探し出す力(検索・収集力)
  • 情報の信頼性を見抜く力(判断力)
  • 集めた情報を整理・分析する力(思考力)
  • 自分の考えを表現し、他者に伝える力(発信力)
  • 情報社会でのマナーやルールを守る力(情報モラル)

つまり「正しく使う力」と「活かして表現する力」の両方を育てることが重要なのです。
AIが当たり前に使われるこれからの社会では、子どもたちが情報を主体的に扱えることが、生きる力の一部になります。


総合的な学習の時間とは?|小学校で育てる探究的な学び

「総合的な学習の時間」とは、小学校で設定されている時間の一つで、国語や算数のように特定の教科に縛られない学習の場です。

この時間の目的は、児童が自ら課題を見つけ、調べ、考え、解決に向けて表現するという探究的な学びを経験することにあります。

たとえばこれまでには、

  • 地域の環境問題を調べて改善提案をする
  • 高齢者との交流を通じて福祉について考える
  • 郷土の歴史を調べて地域PRポスターを作る

といったテーマが扱われてきました。
総合的な学習の時間は「未来を生きる力」を育むために設けられており、教科を超えた横断的な学びを可能にします。

そしてこの探究の過程そのものが、「情報を収集し、整理し、発表する」活動と非常に相性が良いため、ここに「情報の領域」を位置づける動きが出てきているのです。


小学校総合に「情報の領域」が加わる|新しい学習指導要領の方向性

国が次期学習指導要領に向けて検討しているのが、「小学校総合的な学習の時間の中に情報の領域を設ける」という案です。

この背景には、

  • 社会全体で求められる「情報活用能力」の重要性の高まり
  • プログラミング教育やICT教育だけでは不十分という問題意識
  • 教科横断的に情報を扱う場の必要性

があります。

総合の時間に情報教育を組み込むことで、子どもたちは「探究的に学ぶ」ことと「情報を正しく活用する」ことを同時に経験できます。これは、将来必要とされる 調べる・考える・伝える という学びの基盤を築くうえで大きな意味を持ちます。


情報の領域で育てる6つの力|小学生が身につける情報活用スキル

「情報の領域」で目指すのは、以下の6つの柱にまとめられる力です。

  1. 情報を探す・集める力
     検索の仕方を工夫する、複数の情報源を比べる、信頼できるかを考える。
  2. 情報を整理・分析する力
     集めたデータをグラフにしたり、分類したりしてわかりやすくする。
  3. 発表・表現する力
     調べたことをスライドやポスター、プレゼンテーションで伝える。
  4. 情報モラル・セキュリティを守る力
     個人情報を不用意に出さない、著作権を守る、フェイクニュースに惑わされない。
  5. プログラミング的思考の基礎
     順序立てて考える、条件を整理して解決する、といった論理的思考を育む。
  6. 振り返りと改善の力
     「情報をどう扱ったか」を振り返り、次の学びに活かす。

これらは一朝一夕で身につくものではありません。段階的に経験を重ねることで、子どもたちの学びの底力になります。


小学校での授業イメージ|学年別にみる情報教育の実践例

実際に「情報の領域」が導入されると、どんな授業が展開されるのでしょうか。学年ごとにイメージを紹介します。

  • 低学年
     図鑑や動画を使って調べたことを友だちに話す。簡単な写真や絵を組み合わせて伝える。
  • 中学年
     インターネットや資料を活用して調べたことをまとめ、グラフや表に整理する。クラスで発表し合う。
  • 高学年
     地域の課題をテーマに調査を行い、インタビューや統計データを分析して、発表会やポスターで表現する。

このように、成長段階に応じて「調べる→整理する→伝える」という流れを経験することで、情報活用能力が自然と身についていきます。


家庭でできる情報教育のサポート|保護者にできる3つの実践

学校任せにせず、家庭でも「情報リテラシー」を育むサポートができます。

  1. 一緒に検索する
     子どもと一緒にネット検索をし、どの情報が正しいか話し合ってみる。
  2. 情報の信頼性を考える
     「誰が書いたのか」「いつの情報か」を確認する習慣を持たせる。
  3. 発信のルールを確認する
     SNSや写真の投稿に際して「個人情報は出さない」など家庭のルールを共有する。

保護者が「情報モラルの手本」になることで、子どもは自然と正しい姿勢を学んでいきます。


先生と学校現場の挑戦|情報教育を支える指導体制と課題

新しい領域が加わることは、学校や先生にとっても大きな挑戦です。

  • 教員自身にICTスキルや情報リテラシー指導力が求められる
  • 端末やネット環境の整備には地域差がある
  • 限られた総合学習の時間の中でどうカリキュラム化するか

こうした課題に対応するために、文部科学省は「情報活用能力の抜本的向上を支える指導体制改善プラン」を打ち出し、教材や研修、外部人材の活用を進めています。


子どもたちの未来と情報教育|小学校から始める情報活用能力

情報教育の目的は「将来に必要な力」を育てることです。

  • AIやデータ活用が当たり前の社会で必要な「読み解く力」
  • フェイク情報に流されない「判断力」
  • 自分の考えを発信し、他者と協働する「表現力」

情報活用能力は「見える学力(テストで測れる知識)」と「見えない学力(思考力・主体性)」をつなぐ基盤とも言えます。
小学校のうちから取り組むことで、中学・高校・社会へとつながる学びの道筋ができるのです。


まとめ

「情報の領域」は、単なるパソコン授業やプログラミング授業ではありません。
子どもたちが未来を生き抜くために欠かせない「情報を正しく扱い、活用する力」を育てる新しい教育の柱です。

保護者としては、「新しい領域が増えて難しそう」と身構える必要はありません。
むしろ、子どもと一緒に調べたり、家庭の中で情報モラルを話し合ったりすることが、一番のサポートになります。

次期学習指導要領に向けて進む教育改革を前向きに受け止め、家庭と学校が協力して、子どもたちの未来を支えていきましょう。

記事を書いた人

西田 俊章(Nishida Toshiaki)

STEAM教育デザイナー / MOANAVIスクールディレクター

理科・STEAM教育の専門家として、20年以上にわたり子どもたちの学びに携わる。文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』の著者であり、TVやラジオで教育解説の経験ももつ。「体験×対話」の学びを大切にし、子どもたちが楽しく学べる環境を提供している。

📚 経歴・資格
✅ 文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』著者
✅ 元公立小学校教員(教員歴20年)
✅ 横浜国立大学大学院 教育学研究科 修士(教育学)
✅ TVK『テレビでLet’s study』理科講師として出演
✅ Fm yokohama『Lovely Day』でSTEAM教育を解説


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