
子どもに「なんで勉強するの?」と聞かれたら?
学ぶ意味をわかりやすく解説
教育哲学から考える学びの意味と勉強する理由
「なんで勉強しなきゃいけないの?」
子どもからこう尋ねられて、答えに詰まった経験がある保護者は少なくありません。
「学ぶ」とは一体どういうことなのでしょうか。教育はなぜ必要なのでしょうか。そして勉強することは本当に子どもたちの幸せにつながるのでしょうか。
本記事では、教育哲学の視点から「学ぶとは何か?」を考え直し、その意味や目的を整理します。また、親世代と子ども世代の価値観の違い、そして現代社会で求められる新しい学びのあり方についても触れ、子育てや教育実践に活かせるヒントを提供します。
学ぶとは何か?【教育哲学からの定義】
「学ぶ」と「勉強する」の違い
一般的に「勉強」は教科書や問題集に取り組む行為を指しますが、「学ぶ」はもっと広い意味を持ちます。
- 勉強する=学校や塾で決められた知識を身につけること
- 学ぶ=日常の体験や人との関わりを通して世界を理解し、自分を成長させること
例えば、友達とのけんかから「相手の気持ちを考える大切さ」を知ることも「学び」です。教育哲学では、学びを「人間として生きる力を培う営み」と捉えています。
古代から現代までの教育哲学における「学び」の定義
- ソクラテス:「無知の自覚こそが学びの出発点」
- アリストテレス:「学びは幸福を目指す実践的知恵につながる」
- デューイ:「教育は生活の準備ではなく、生活そのもの」
- 西田幾多郎:「真の学びは“自己を見つめること”から始まる」
学びの定義は時代や文化で異なりますが、共通するのは 学びは知識の習得以上のもの であり、人間としてよりよく生きるための基盤だという点です。
日本と海外の教育文化に見る「学ぶ意味」
- 日本では「忍耐・努力」と結びつきやすく、「勉強=我慢」というイメージが強い
- 欧米では「探究・対話」に重きが置かれ、学びは「自己表現・議論の場」として捉えられる
- フィンランドなど北欧諸国では「幸福と学びの両立」を重視し、遊びや体験を大切にする
この比較からも、「学ぶとは単に知識を覚えることではなく、社会や文化の中で生きる力を培うこと」と言えます。
教育とは何か?【教育哲学が示す本質】
教育の目的は「知識の習得」だけではない
教育はテストで点数を取るための訓練にとどまりません。教育哲学者たちは「教育の本質」を次のように捉えてきました。
- 自律した個人を育てる(カント)
- 民主社会を生き抜く市民を育てる(デューイ)
- 自己を深く理解し他者と共生する力を育てる(西田幾多郎)
つまり教育の目的は「学力」だけでなく「人間としての成熟」を目指すことにあります。
教育哲学者の視点
- ソクラテス:対話を通じて「自ら考える力」を引き出す
- デューイ:体験と探究を通じた学びが民主主義を支える
- 西田幾多郎:学びとは「自己と世界の関係」を深く理解すること
これらの視点は現代の「アクティブラーニング」「探究学習」にも通じています。
現代社会における教育の役割と限界
- 役割:知識・スキルの習得、社会参加の準備、人格形成
- 限界:偏差値重視・受験競争が本来の学びを狭めてしまう
👉 ここで重要なのは「教育=学校教育」ではなく、家庭・地域・社会を含めた広い意味での教育を考えることです。
勉強する意味はどこにあるのか?【子どもの問いにどう答えるか】
子どもがよく聞く「なんで勉強しなきゃいけないの?」への答え方
子どもにとって「勉強」は多くの場合「やらされること」であり、その意味が見えなければモチベーションは上がりません。そこで大切なのは、「将来のため」だけではなく、いまの生活に直結する答え を伝えることです。
- 将来のため:進学や職業選択の幅を広げる。例えば算数を学ぶことでエンジニアや研究者になる可能性が開ける。
- 今のため:学んだことが日常生活に役立つ。計算が早ければ買い物が楽になる、歴史を知ればマンガやゲームの背景がより楽しめる。
- 自由のため:知識は「自分で選ぶ力」を与える。知らなければ誰かの意見に従うしかないが、学んでいれば自分で判断できる。
👉 子どもには「勉強は“縛り”ではなく“自由になるための道具”なんだよ」と伝えると響きやすいです。
勉強は将来のため?それとも今を生きるため?
教育哲学者デューイは「教育は生活の準備ではなく生活そのもの」と述べました。
つまり、勉強は「未来に備えるための投資」だけでなく、いまを充実させるための営みでもあります。
例えば、
- 音楽を学ぶことで「友達と一緒に演奏する楽しさ」を味わえる
- 理科を学ぶことで「日常の現象に不思議を感じる目」を持てる
- 国語を学ぶことで「相手に自分の考えを伝える力」を得られる
👉 勉強は未来だけでなく「今の毎日を豊かにする営み」であると気づかせることが大切です。
勉強と幸福・生きる力のつながり
心理学の研究では、人は「成長感」を得られると幸福度が上がる ことがわかっています。勉強は「昨日できなかったことが今日できるようになる」経験を積み重ねる場です。
- 喜び:「できた!」という小さな成功体験が自己肯定感を高める
- 自己表現:作文や図工を通して、自分の感じたことや考えを形にできる
- つながり:学んだ知識を共有することで、友達や家族と新しい会話が生まれる
- 生きる力:学んだ知識やスキルが、困難な状況に直面したときの選択肢を広げてくれる
👉 勉強は「幸せになるための道具」であり、点数や偏差値だけでなく、自己成長・自己表現・人とのつながりをもたらす活動なのです。
保護者へのヒント
- 「将来役立つから勉強しなさい」だけではなく、いま役立つ・楽しい 例を一緒に探す
- 点数だけで評価せず、小さな成長を認める声かけ をする
- 勉強を「孤独な作業」にせず、親子で「学ぶ楽しさ」を共有する
学びの価値は時代で変わる?【世代間・社会変化と学びの意味】
親世代と子ども世代で違う「教育観」
教育観は時代背景や社会構造によって大きく変化します。
- 親世代(昭和〜平成初期)
高度経済成長期からバブル期を経験し、「良い学校に入り、良い会社に勤めれば一生安泰」という社会モデルがありました。勉強の意味は「安定した職業や経済的成功のため」でした。 - 子ども世代(令和)
AI・グローバル化・多様な働き方が当たり前の時代。企業の寿命は短くなり、学歴だけでは将来の保証になりません。そのため、「答えのない問題に取り組む力」「変化に適応する力」を重視する教育観が広がっています。
このズレは親子の会話に衝突を生むことがあります。
「勉強はいい大学に入るため」という親世代の言葉は、子どもにとっては現実感が薄いのです。
👉 このギャップを埋めるには、「なぜ学ぶのか?」を世代を超えて対話すること が欠かせません。親が「自分の時代の価値観」と「今の社会の現実」を結びつけて語れるかどうかがポイントです。
知識社会からAI社会へ、学びの価値はどう変わる?
教育の価値も社会構造に応じて変わります。
- かつて(知識社会):暗記力や知識量が評価され、「たくさん覚える人=優秀」とされた
- 現在(情報社会):Google検索やAIにより、知識そのものは誰でもすぐ手に入る
- これから(AI社会):問われるのは「情報をどう活かすか」。創造力、批判的思考、協働力が価値になる
OECDの「Learning Compass 2030」でも、これからの学びの中心は「知識」ではなく「スキル」や「態度・価値観」にあるとされています。
👉 つまり、教育は「知識を詰め込む場所」から「自分で問いを立て、他者と共に考え、新しい答えを生み出す場」へシフトしています。
学びと幸福の関係|「正解のない問い」に向き合う力
教育哲学と国際教育政策の両面から、学びと幸福の関係は重視されています。
- OECD Education 2030
学習成果のゴールとして「Well-being(幸福)」を明示。知識やスキルはその手段であり、学ぶこと自体が「より良く生きること」につながるとされています。 - 哲学的視点
ソクラテスは「問い続けること」こそが人間を成長させると説きました。正解のない問いに取り組むことは、人間にとって「自己理解」と「世界理解」を深める営みでもあります。 - 心理学的視点
「自己決定理論(Deci & Ryan)」によれば、人は「自律性・有能感・関係性」が満たされると幸福を感じるとされます。学びはこの3つを支える活動であり、幸福感の源泉にもなるのです。
👉 正解が用意されたテストだけでなく、「どうしたら地域が良くなるか?」「自分のやりたいことは何か?」といった問いに挑むことが、これからの子どもたちに必要な学びであり、幸福にもつながります。
💡 まとめると:
- 親世代と子世代の教育観は社会背景の違いからギャップが生じる
- 知識社会からAI社会へ移行し、「問いを立てる力」「共に考える力」が重視されている
- 学びは「生きるための力」であると同時に「幸福を育む営み」でもある
- 親子の対話の中で「学ぶことの意味」を共有することが、これからの教育に不可欠
まとめ|「学ぶこと」は生きることそのもの
- 「学ぶ」とは単に知識を得ることではなく、人として成長し、幸福に生きるための営みである
- 教育哲学は古代から現代まで、学びの意味を問い続けてきた
- 勉強する理由は「将来のため」だけでなく「今を豊かに生きるため」でもある
- 世代や社会が変わっても、学ぶ営みは人間の本質に根ざしている
MOANAVIでは、こうした教育哲学の問いを単なる理論としてではなく、日々の学びの実践として子どもたちと共に探究しています。
- 自己調整学習
子ども自身が「どのくらい・どんな方法で学ぶか」を選び、主体的に学習を進める仕組みを取り入れています。 - 協創の学び
プロジェクト型の活動や地域とのつながりを通じて、「正解のない問い」に仲間と挑戦する経験を大切にしています。 - STUDY POINTシステム
点数ではなく学習行動そのものを評価し、学びを「努力した過程」として価値づける工夫があります。
こうした取り組みにより、子どもたちは「学ぶとは何か?」という根源的な問いに、自分自身の体験を通して向き合い、知識を得る喜び・挑戦する楽しさ・社会とつながる意義 を実感しながら成長しています。
👉 MOANAVIは「学びでつながる、学びがつながる」を理念に、これからの教育を地域と共につくり上げていきます。
記事を書いた人

西田 俊章(Nishida Toshiaki)
STEAM教育デザイナー / MOANAVIスクールディレクター
理科・STEAM教育の専門家として、20年以上にわたり子どもたちの学びに携わる。文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』の著者であり、TVやラジオで教育解説の経験ももつ。「体験×対話」の学びを大切にし、子どもたちが楽しく学べる環境を提供している。
📚 経歴・資格
✅ 文部科学省検定済教科書『みんなと学ぶ 小学校理科』著者
✅ 元公立小学校教員(教員歴20年)
✅ 横浜国立大学大学院 教育学研究科 修士(教育学)
✅ TVK『テレビでLet’s study』理科講師として出演
✅ Fm yokohama『Lovely Day』でSTEAM教育を解説