
子どもの勉強について考えるとき、多くの保護者は「やる気」や「努力」に目を向けがちです。
しかし教育心理学の研究では、子どもの学びは単純な意欲や能力だけで説明できるものではないとされています。
子どもの成長には、挑戦の難易度、学習環境、学習行動、フィードバック、人との関係など、さまざまな要素が関わっています。
本記事では、教育心理学の代表的な理論である
最近接発達領域(ZPD)、自己調整学習、自己決定理論、形成的アセスメント、学習環境デザイン
を手がかりに、子どもの学びがどのように成長していくのかを整理します。
子どもはなぜ学ぶのか。
なぜ勉強がうまくいかなくなることがあるのか。
教育心理学の視点から、子どもの学びの仕組みをわかりやすく解説します。
教育心理学から考える子どもの学び|なぜ勉強がうまくいかなくなるのか
子どもの勉強について悩んでいる保護者の方は多くいます。
・以前はできていたのに、急に勉強をしなくなった
・机には向かっているのに理解が深まらない
・「わかった」と言うのにテストではできない
・やる気がある日とない日の差が大きい
こうした状況を見ると、多くの人は次のように考えます。
「この子はやる気がないのではないか」
「努力が足りないのではないか」
しかし教育心理学では、こうした問題を意欲や性格の問題としてはあまり説明しません。
むしろ注目するのは
子どもがどのように学び、どのように理解をつくっていくのか
という学習のプロセスです。
教育心理学の研究では、子どもの学びがうまくいかなくなる背景には、いくつかの共通する要因があることが知られています。
その多くは
子ども自身の能力ではなく、学びの仕組みや環境に関係している
という点です。
この章では、子どもの学びを教育心理学の視点から整理しながら、勉強がうまくいかなくなる理由を見ていきます。
子どもが勉強しなくなる理由|教育心理学から見る学習意欲の低下
子どもが勉強をしなくなるとき、多くの大人は「やる気の問題」と考えがちです。
しかし教育心理学では、学習意欲は個人の性格だけで決まるものではないと考えられています。
例えば
・課題が簡単すぎる
・逆に難しすぎる
・自分で選べない
・意味が見えない
といった状況では、子どもの意欲は自然に低下していきます。
つまり、やる気の問題というよりも
学びの条件が整っていない
場合が多いのです。
教育心理学の研究でも、子どもの学習意欲は次のような要素と強く関係していることが知られています。
・課題の難易度
・学習環境
・フィードバック
・学習の意味づけ
これらが適切に整っていると、子どもは自然と学びに向かうようになります。
反対に、どれかが大きく欠けていると、勉強に向かうこと自体が難しくなってしまいます。
このテーマについては、次の記事でも詳しく解説しています。
子どもはなぜ勉強しなくなるのか|子どもが勉強しない理由を教育心理学から解説
https://moanavi.com/10562
「わかったのにできない」子どもの勉強|理解が定着しない理由
保護者からよく聞く言葉のひとつに
「説明を聞くとわかったと言うのに、問題になるとできない」
というものがあります。
この現象は、教育心理学でもよく知られている問題です。
子どもが「わかった」と感じる状態には、実は複数の段階があります。
例えば
・説明を聞いて理解した気になる段階
・例題ではできる段階
・自分一人で応用できる段階
これらはすべて異なる理解のレベルです。
説明を聞いたときに「わかった」と感じても、それが自分で使える知識になっているとは限りません。
教育心理学では、理解とは単なる知識の記憶ではなく
状況に応じて使える知識の構造
と考えられています。
そのため、理解を深めるためには
・自分で問題に挑戦する
・試行錯誤する
・間違いから学ぶ
といった経験が必要になります。
このテーマについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
理解とは何か|子どもの「わかったのにできない」が起きる理由と理解が深まる学び方
https://moanavi.com/10529
勉強の結果だけでは子どもの学びは見えない|学習行動を見る理由
学校では、子どもの学習状況を把握する方法として、主にテストや成績が使われています。
もちろんこれらは重要な指標ですが、教育心理学では
結果だけでは子どもの学びは十分に理解できない
と考えられています。
なぜなら、同じ点数であっても、その背後にある学び方は大きく異なるからです。
例えば
・自分で試行錯誤して理解した子
・説明を覚えて解いた子
・偶然正解した子
この三人は、テストの点数が同じでも、理解の状態はまったく違います。
そのため教育心理学では
学習の結果だけでなく、学習行動を見ること
が重要だとされています。
具体的には
・どの課題を選ぶのか
・どのように問題に取り組むのか
・どこで止まるのか
・どのようにやり直すのか
こうした行動の中に、子どもの理解の状態が現れます。
この視点は、MOANAVIの教育でも大切にしている考え方です。
子どもの学びを理解するためには、結果だけではなく、学びのプロセスそのものを見ることが重要になります。
このテーマについては、次の記事でも詳しく整理しています。
子どもの学習行動を見るとは何か|勉強の結果ではなく「学び方」を見る理由
https://moanavi.com/10532
このように教育心理学の視点で見ると、子どもの学びがうまくいかなくなる理由は、単純な意欲の問題ではありません。
むしろ
・学びの難易度
・理解の段階
・学習環境
・学習行動
といった要素が複雑に関係しています。
そしてこれらを理解するために発展してきたのが、教育心理学のさまざまな理論です。
教育心理学は、子どもの能力を評価する学問ではなく、子どもの学びがどのように成長するのかを理解するための学問と言えるでしょう。
次の章では、教育心理学がどのように子どもの学びを説明しているのかを整理していきます。
教育心理学とは何か|子どもの学びを理解するための学問
子どもの勉強について考えるとき、多くの場合は
・どれくらい覚えたか
・テストで何点取ったか
・どれだけ問題を解けたか
といった結果に目が向きます。
しかし教育心理学では、学びをこのような結果だけで理解することはできないと考えられています。
なぜなら、同じ結果であっても、そこに至るまでの学び方は子どもによって大きく異なるからです。
例えば、同じ100点のテストでも
・自分で考えながら理解した子
・解き方を覚えて再現した子
・偶然似た問題が出て正解した子
では、理解の深さはまったく違います。
教育心理学が注目するのは、このような学びのプロセスです。
子どもはどのように理解をつくるのか。
どのような環境で学びやすくなるのか。
なぜ意欲が生まれたり失われたりするのか。
教育心理学は、こうした問いを研究する学問です。
教育心理学は子どもの学習プロセスを研究する学問
教育心理学は、心理学の中でも学びや教育に関わる人間の行動や心の働きを研究する分野です。
その対象は幅広く
・学習の仕組み
・理解のプロセス
・学習意欲
・学習環境
・指導方法
・評価とフィードバック
などが含まれます。
例えば教育心理学では、次のような問いが研究されています。
・人はどのように新しい知識を理解するのか
・どのような課題設定が成長を生むのか
・やる気はどのように生まれるのか
・どのような環境で学びが深まるのか
これらはすべて、子どもの学びを理解するために重要なテーマです。
教育心理学の研究によって、学校教育や学習支援の方法は大きく変わってきました。
例えば
・発達段階を考慮した教育
・協働学習
・形成的アセスメント
・自己調整学習
など、現在の教育で重視されている考え方の多くは、教育心理学の研究から生まれています。
学びは「知識」ではなく「理解の更新プロセス」
教育心理学では、学びを単なる知識の記憶とは考えません。
学びとは、理解が更新され続けるプロセスと考えられています。
子どもが新しいことを学ぶとき、最初から完全に理解できるわけではありません。
多くの場合は
・最初はよくわからない
・少し理解できる
・自分で試してみる
・間違いに気づく
・理解が修正される
という過程を繰り返しながら、理解が少しずつ深まっていきます。
このような学び方は、教育心理学では構成主義的学習観とも呼ばれます。
つまり、人は知識をそのまま受け取るのではなく、経験を通して自分の理解を組み立てていくという考え方です。
この視点から見ると、子どもが間違えることは必ずしも失敗ではありません。
むしろ、試行錯誤の中で理解を更新していくことが、学びの本質だと考えられています。
このような理解の考え方については、次の記事でも詳しく整理しています。
理解とは何か|子どもの「わかったのにできない」が起きる理由と理解が深まる学び方
https://moanavi.com/10529
学習環境が子どもの学びを変える理由
教育心理学の研究では、学びは個人の能力だけで決まるものではなく、環境との関係の中で生まれると考えられています。
例えば、同じ子どもでも
・どのような課題に出会うか
・どのような説明を受けるか
・どのような仲間と学ぶか
・どのようなフィードバックを受けるか
によって、理解の深さや学習意欲は大きく変わります。
この考え方は、教育研究者の John D. Bransford が提唱した学習環境モデルでも重要な視点となっています。
ブランスフォードは、効果的な学習環境には次の要素が必要だと説明しました。
・学習者中心
・知識中心
・評価中心
・共同体中心
これらの要素がバランスよく整うことで、子どもの理解は深まりやすくなります。
つまり、子どもが勉強をしないとき、単純に努力不足と考えるのではなく、
学びの環境がどのようにデザインされているか
を見ることが重要になります。
このテーマについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
学習環境のデザインとは何か|ブランスフォードの学習環境モデルをわかりやすく解説
https://moanavi.com/10514
また、学習環境が子どもの成長にどのような影響を与えるのかについては、次の記事でも整理しています。
学習環境が学びを変える理由|子どもの成長を支える「学びの環境」とは
https://moanavi.com/10541
このように教育心理学は、子どもの能力を評価するための学問ではありません。
むしろ
子どもの学びがどのような条件で成長するのか
を理解するための学問です。
そして教育心理学の研究の中でも、特に子どもの成長を説明する理論として広く知られているのが
最近接発達領域(ZPD)
という考え方です。
次の章では、この理論を手がかりに、子どもの成長がどのように生まれるのかを見ていきます。
最近接発達領域(ZPD)とは何か|子どもの成長が生まれる「ちょうどよい挑戦」
子どもの学びを理解するうえで、教育心理学の中でも特に重要な概念の一つが 最近接発達領域(ZPD) です。
この理論を提唱したのは、ロシアの心理学者 Lev Vygotsky です。
ヴィゴツキーは、子どもの成長は単純に年齢や能力によって決まるものではなく、適切な支援と挑戦の関係の中で生まれると考えました。
そしてその成長が最も起こりやすい領域を「最近接発達領域」と呼びました。
最近接発達領域とは、簡単に言うと
一人ではまだできないが、支援があればできる課題の領域
のことです。
子どもの学びは、この領域にある課題に取り組むときに最も大きく成長するとされています。
この概念については、次の記事でも詳しく解説しています。
最近接発達領域とは何か|ヴィゴツキーのZPDをわかりやすく解説|子どもの成長が生まれる学びの条件
https://moanavi.com/10517
子どもの成長は「できること」と「できないこと」の間で生まれる
子どもの課題には、大きく分けて三つのレベルがあります。
① 一人でできる課題
すでに理解している内容です。
練習としては意味がありますが、大きな成長は起こりにくい領域です。
② 支援があればできる課題
教師や仲間の助け、ヒント、教材などを使えば理解できる領域です。
ここが 最近接発達領域(ZPD) です。
③ まだ理解できない課題
現時点では理解するための準備が整っていない課題です。
無理に挑戦しても、挫折や混乱につながることがあります。
子どもの成長が最も大きく生まれるのは、②の領域です。
この領域では
・少し難しい
・自分だけでは難しい
・でも完全に不可能ではない
という状態になります。
つまり
「ちょうどよい挑戦」
が存在する場所です。
教育心理学では、このような挑戦が理解の成長を生むと考えられています。
挑戦が理解を更新していく理由
子どもが新しいことを理解するとき、最初から完全に理解できるわけではありません。
多くの場合は
・ヒントをもらう
・説明を聞く
・例を見て試す
・間違える
・修正する
という試行錯誤を繰り返します。
このプロセスの中で、子どもの理解は少しずつ更新されていきます。
つまり、理解は
「説明を聞いた瞬間」に生まれるのではなく
「挑戦と修正の過程」で育っていく
のです。
そのため、課題が簡単すぎる場合、子どもは試行錯誤する必要がありません。
逆に、課題が難しすぎる場合は、どこから考えればよいのかがわからなくなります。
教育心理学では、子どもの理解を成長させるためには
適切な難易度の挑戦
が必要だとされています。
この考え方については、次の記事でも詳しく解説しています。
挑戦が成長を生む理由|子どもの理解が伸びる「ちょうどよい難しさ」とは|教育心理学から考える学びの条件
https://moanavi.com/10544
「ちょうどよい難しさ」を見つけることが教育の役割
ヴィゴツキーの理論は、教育の役割について重要な示唆を与えました。
それは、教育とは単に知識を教えることではなく、
子どもが挑戦できる課題を見つけること
だという考え方です。
つまり教育とは
・課題の難易度を調整する
・必要なヒントを与える
・理解の状態を見取る
といった支援を通して、子どもが最近接発達領域で学べるようにすることです。
この視点に立つと、教育の中心は
「何を教えるか」
ではなく
「どのような挑戦を用意するか」
になります。
MOANAVIでも、この考え方を大切にしています。
子どもを学年や成績で一律に捉えるのではなく、その子の学びの現在地を見ながら、次の挑戦を整えていきます。
このような考え方をさらに発展させたものが、子どもが自分で学びを調整していく力を説明する理論
自己調整学習
です。
次の章では、子どもがどのようにして「自分で学ぶ力」を育てていくのかを見ていきます。
自己調整学習とは何か|子どもが自分で学ぶ力が育つ仕組み
子どもの勉強について考えるとき、多くの保護者が気にするのは
・どれだけ勉強したか
・どれだけ問題を解いたか
・テストで何点取ったか
といった結果です。
しかし教育心理学では、学びを理解するためには結果よりも
子どもがどのように学んでいるのか
というプロセスを見ることが重要だとされています。
この視点を体系的に説明した理論が 自己調整学習 です。
自己調整学習の研究で知られる心理学者が Barry J. Zimmerman です。
ジマーマンは、学習を単なる知識の習得ではなく、
学習者が自分の学びを調整していくプロセス
として説明しました。
つまり、勉強ができる子どもとは、単に知識が多い子ではなく、
自分で学び方を調整できる子ども
だという考え方です。
この理論については、次の記事でも詳しく解説しています。
自己調整学習とは何か|ジマーマンの理論をわかりやすく解説|自分で学ぶ子どもはどのように育つのか
https://moanavi.com/10523
学びは「選択・挑戦・振り返り」の循環で成長する
自己調整学習では、学びは次のような循環の中で進むと考えられています。
① 目標や課題を選ぶ
どの課題に取り組むのかを決める。
② 挑戦する
課題に取り組みながら試行錯誤する。
③ 振り返る
うまくいった点や難しかった点を整理する。
この循環を通して、子どもは少しずつ学び方を身につけていきます。
例えば
・難しい問題に挑戦してみる
・うまくいかないときに方法を変える
・間違いから理解を修正する
といった経験を繰り返すことで、学習の質は高まっていきます。
つまり、学びとは
課題 → 挑戦 → 振り返り → 次の挑戦
という連続したプロセスなのです。
子どもが学び方を学ぶとはどういうことか
自己調整学習の視点では、子どもの成長とは単に知識が増えることではありません。
むしろ重要なのは
学び方そのものを身につけること
です。
例えば、次のような行動が見られる子どもは、自己調整学習が育っていると言えます。
・自分に合った課題を選ぶ
・わからないときに調べる
・間違いを修正する
・理解できるまで挑戦を続ける
これらはすべて、学びを自分で調整する行動です。
教育心理学では、このような学習行動が育つことで、子どもは新しい課題にも自分で取り組めるようになると考えられています。
このテーマについては、次の記事でも詳しく整理しています。
学び方を学ぶとは何か|子どもが自分で学べるようになる学習の本質
https://moanavi.com/10538
自己調整学習は環境によって育つ
重要なのは、自己調整学習は子どもだけの努力で生まれるものではないという点です。
学びの環境が大きく関係しています。
例えば
・自分で課題を選べる環境
・挑戦できる難易度
・試行錯誤が許される雰囲気
・理解を見取るフィードバック
こうした条件が整うと、子どもは自然と学び方を身につけていきます。
逆に
・常に答えを教えられる
・失敗が許されない
・課題が一律に決められている
といった環境では、子どもが学びを調整する機会は少なくなります。
教育心理学では、学びとは
子どもと環境の関係の中で成長するもの
と考えられています。
そして、子どもの学習意欲について考えるときに重要になる理論が、次に紹介する
自己決定理論
です。
この理論は、子どものやる気がどのように生まれるのかを説明するものです。
自己決定理論とは何か|子どものやる気を生む3つの心理的欲求
子どもの勉強について考えるとき、多くの保護者が気にするのは
「どうすればやる気が出るのか」
という点ではないでしょうか。
・勉強を始めてもすぐにやめてしまう
・言われないと勉強しない
・最初は頑張るが続かない
こうした状況を見ると、子どもの意欲を高める方法を探したくなります。
しかし教育心理学では、やる気は単純に「頑張れ」と言って生まれるものではないと考えられています。
子どもの学習意欲を理解するために重要な理論が 自己決定理論 です。
この理論を提唱した心理学者が Edward L. Deci と Richard M. Ryan です。
自己決定理論では、人が主体的に行動するときには、次の三つの心理的欲求が満たされていると説明されています。
・自律性
・有能感
・関係性
この理論については、次の記事でも詳しく解説しています。
自己決定理論とは何か|デシの動機づけ理論をわかりやすく解説|子どものやる気を生む3つの心理的欲求
https://moanavi.com/10526
自律性|自分で選んでいるという感覚
自律性とは、自分の行動を自分で選んでいると感じられる状態です。
子どもが勉強に向かうとき、
・自分で課題を選んでいる
・自分のペースで進められる
・挑戦する内容を決められる
といった状況では、学びに主体性が生まれやすくなります。
逆に
・常に指示される
・課題が一方的に決められる
・失敗が許されない
といった環境では、子どもは勉強を「やらされているもの」と感じやすくなります。
教育心理学では、自律性が尊重される環境の中で、学習意欲は高まりやすいと考えられています。
有能感|できるようになっているという実感
有能感とは、自分が成長しているという感覚です。
子どもが学びに意欲を持つためには、
・少しずつできるようになっている
・理解が深まっている
・挑戦が成功につながっている
という実感が必要になります。
この点で重要なのが、課題の難易度です。
簡単すぎる課題では成長の実感が生まれません。
逆に難しすぎる課題では、努力しても成果が見えにくくなります。
教育心理学では、子どもの成長が生まれるのは
「少し難しいが挑戦できる課題」
だと考えられています。
これは前の章で紹介した 最近接発達領域(ZPD) の考え方とも深く関係しています。
関係性|安心して学べる人とのつながり
三つ目の欲求が 関係性 です。
関係性とは、自分が周囲の人とつながっているという感覚です。
子どもは
・先生に理解されている
・仲間と学んでいる
・安心して質問できる
といった環境の中で、学びに向かいやすくなります。
逆に
・失敗を笑われる
・質問しにくい
・孤立している
といった状況では、挑戦そのものが難しくなります。
教育心理学では、学びは個人の努力だけで成立するものではなく、関係の中で育つものと考えられています。
学習意欲は環境によって変わる
自己決定理論が示している重要なポイントは、
やる気は個人の性格ではなく、環境との関係で生まれる
という点です。
つまり、子どもの意欲を高めるためには、
・自分で選べる
・挑戦できる
・安心して学べる
という環境が必要になります。
このような学びの条件については、次の記事でも詳しく整理しています。
子どものやる気はどう生まれるのか|教育心理学から考える学習意欲と学びの環境
https://moanavi.com/10550
ここまで見てきたように、教育心理学では
・挑戦の難易度(ZPD)
・学び方の循環(自己調整学習)
・学習意欲(自己決定理論)
といった理論を通して、子どもの学びを説明しています。
そしてこれらの理論と深く関係しているのが、
子どもの理解をどのように見取り、学びを調整するか
という視点です。
次の章では、テストだけでは見えない学びを理解するための考え方
形成的アセスメント
について整理していきます。
形成的アセスメントとは何か|テストでは見えない子どもの学び
学校教育では、子どもの学習状況を把握する方法として、テストや成績が広く使われています。
もちろんこれらは重要な指標ですが、教育心理学では
テストだけでは子どもの学びを十分に理解することはできない
と考えられています。
なぜなら、テストが示すのは主に結果であり、子どもがどのように学んできたのかというプロセスは見えにくいからです。
例えば、同じ点数のテストでも
・試行錯誤しながら理解した子
・解き方を覚えて解いた子
・偶然正解した子
では、理解の状態は大きく異なります。
教育心理学では、このような違いを理解するために
学びの途中を見取り、次の学びにつなげる
という考え方が重要だとされています。
この視点を体系的に整理したものが 形成的アセスメント です。
形成的アセスメントの研究で知られる教育研究者が Caroline Gipps です。
形成的アセスメントでは、評価は単なる成績の判断ではなく、
子どもの理解を見取り、学びを調整するためのプロセス
と考えられています。
この理論については、次の記事でも詳しく解説しています。
形成的アセスメントとは何か|ギップスの教育評価論をわかりやすく解説|テストだけでは見えない子どもの学び
https://moanavi.com/10520
子どもの理解はどのように見取られるのか
形成的アセスメントでは、子どもの理解はテストだけで判断されるものではありません。
むしろ、学びの過程に現れるさまざまな行動が重要な手がかりになります。
例えば
・どの課題を選ぶのか
・どのように問題に取り組むのか
・どこで止まるのか
・どのようにやり直すのか
こうした行動の中には、子どもの理解の状態が表れています。
教育心理学では、これらを総合的に見ながら
子どもの学びの現在地を理解する
ことが重要だとされています。
このような見取りは、単に間違いを指摘することではありません。
むしろ
・どこまで理解しているのか
・どこでつまずいているのか
・次にどの課題が適切なのか
を整理するためのものです。
つまり、形成的アセスメントは
子どもの学びを前に進めるための手がかり
なのです。
フィードバックが学びを成長させる理由
形成的アセスメントの中で特に重要なのが フィードバック です。
子どもが課題に取り組んだとき、その結果について何も情報が得られなければ、次にどうすればよいのかがわかりません。
しかし
・どこまで理解できているか
・どこをもう一度考える必要があるか
・どのように改善できるか
といった情報が与えられると、子どもは次の挑戦につなげることができます。
このようなフィードバックは、単に正解を教えることとは違います。
むしろ重要なのは
子どもが自分で理解を更新できるようにすること
です。
教育心理学では、学びとは
挑戦 → フィードバック → 理解更新
という循環の中で成長すると考えられています。
この視点は、これまで見てきた
・最近接発達領域(ZPD)
・自己調整学習
・自己決定理論
とも深く関係しています。
つまり
・適切な挑戦があり
・自分で学びを調整し
・フィードバックによって理解を更新する
という循環の中で、子どもの学びは成長していきます。
テストでは見えない学び
形成的アセスメントの視点から見ると、テストは学びのすべてを示すものではありません。
テストは、ある時点での理解の一部を測るものです。
しかし、子どもの学びには
・挑戦している過程
・理解が深まりつつある段階
・試行錯誤の途中
といった、テストでは見えにくい部分が多く存在します。
教育心理学では、こうしたプロセスを丁寧に見取りながら、学びを支えていくことが重要だとされています。
そして、このような学びを支えるうえで大きな役割を持つのが
学習環境
です。
次の章では、子どもの理解を支える環境のあり方について、教育心理学の視点から整理していきます。
学習環境のデザインとは何か|子どもの学びを支える環境
子どもの学びについて考えるとき、多くの場合は
・どの教材を使うか
・どれだけ勉強時間を確保するか
・どれくらい問題を解くか
といった「学習内容」に注目しがちです。
しかし教育心理学では、学びを理解するうえで非常に重要なのが
学習環境
です。
子どもは、同じ教材を使っていても
・どのような環境で学ぶか
・どのような関係の中で学ぶか
・どのような課題が提示されるか
によって、理解の深さや学習意欲が大きく変わります。
この視点を体系的に整理した研究者の一人が John D. Bransford です。
ブランスフォードは、学びを支える環境にはいくつかの重要な要素があると説明しました。
このテーマについては、次の記事でも詳しく解説しています。
学習環境のデザインとは何か|ブランスフォードの学習環境モデルをわかりやすく解説
https://moanavi.com/10514
学びは環境と関係の中で生まれる
教育心理学では、学びは個人の能力だけで成立するものではなく、
環境との関係の中で生まれるもの
と考えられています。
例えば、同じ子どもでも
・課題の出され方
・説明の仕方
・周囲の関係
・挑戦の難易度
によって、学びの質は大きく変わります。
ブランスフォードの研究では、効果的な学習環境には次のような特徴があるとされています。
学習者中心
子どもの理解の状態や経験を出発点として学びを組み立てる。
知識中心
単なる暗記ではなく、理解を深める学びを重視する。
評価中心
子どもの理解を見取り、次の学びにつなげる。
共同体中心
教師や仲間との関係の中で学びを育てる。
これらの要素がバランスよく整うことで、子どもの学びは深まりやすくなります。
この考え方については、こちらの記事でも詳しく整理しています。
学習環境が学びを変える理由|子どもの成長を支える「学びの環境」とは
https://moanavi.com/10541
環境が変わると学び方も変わる
教育心理学の研究では、子どもの学習行動は環境の影響を強く受けることが知られています。
例えば
・自分で課題を選べる環境
・試行錯誤が許される雰囲気
・質問しやすい関係
・挑戦できる難易度
こうした条件が整うと、子どもは自然と主体的に学びやすくなります。
逆に
・常に答えを教えられる
・失敗が許されない
・課題が一律に決められている
といった環境では、子どもが自分で考える機会は少なくなります。
このような違いは、これまで見てきた
・最近接発達領域(ZPD)
・自己調整学習
・自己決定理論
・形成的アセスメント
といった理論とも深く関係しています。
つまり
環境は学びのすべてのプロセスに影響する
のです。
学びの環境は「デザイン」されるもの
教育心理学の視点では、学習環境は偶然できるものではなく、
意図的にデザインされるもの
と考えられています。
例えば
・課題の難易度を調整する
・子どもの理解を見取りながら次の課題を提示する
・挑戦とフィードバックの循環をつくる
といった工夫によって、学びの環境は大きく変わります。
このような環境の中で、子どもは
・挑戦する
・試行錯誤する
・理解を更新する
という学びのプロセスを繰り返していきます。
そして、これまで紹介してきた教育心理学の理論は、単独で存在しているわけではありません。
むしろ、それぞれの理論は
子どもの学びの一つの循環
を説明しています。
次の章では、これまで紹介してきた理論をまとめながら、
子どもの学びがどのように連続して成長していくのか
という視点から整理していきます。
ZPD×スタディポイント|MOANAVIの学びの循環モデル
ここまで見てきたように、教育心理学には子どもの学びを説明するさまざまな理論があります。
・最近接発達領域(ZPD)
・自己調整学習
・自己決定理論
・形成的アセスメント
・学習環境デザイン
これらはそれぞれ別の研究として発展してきましたが、実際の学びの中では、互いに関係しながら働いています。
つまり、子どもの学びは一つの理論だけで説明できるものではなく、複数の要素が循環するプロセスとして理解することができます。
MOANAVIでは、この教育心理学の研究をもとに、子どもの学びを次のような循環として捉えています。
自律的選択
↓
挑戦(ZPD)
↓
学習行動
↓
モニタリング
↓
フィードバック
↓
理解更新
↓
次の挑戦
この循環が繰り返されることで、子どもの理解は少しずつ成長していきます。
ZPDと挑戦の関係
この循環の中で最も重要になるのが 挑戦の難易度 です。
子どもの課題が
・簡単すぎる
・難しすぎる
場合、学びは深まりにくくなります。
簡単すぎる課題では、新しい理解が生まれません。
逆に難しすぎる課題では、どこから考えればよいのかわからなくなり、学びが止まってしまうことがあります。
教育心理学では、子どもの成長が最も生まれやすいのは
最近接発達領域(ZPD)
と呼ばれる領域だとされています。
つまり、少し難しいが挑戦できる課題です。
この考え方については、次の記事でも詳しく解説しています。
ZPD×スタディポイントとは何か|子どもの成長を生む「ちょうどよい挑戦」と学びの循環
https://moanavi.com/10547
学習行動を見ることが学びを支える
MOANAVIでは、子どもの学びを理解するうえで、特に
学習行動
を重視しています。
学習行動とは、子どもが課題に向かうときの行動です。
例えば
・どの課題を選ぶのか
・どのように問題に取り組むのか
・どこで止まるのか
・どのようにやり直すのか
こうした行動の中には、子どもの理解の状態が表れています。
そのため、学びを支えるためには
・結果だけを見る
・テストの点数だけを見る
のではなく、
学びの過程を丁寧に見取ること
が重要になります。
スタディポイントが生む学びの循環
MOANAVIでは、この学びの循環を支える仕組みとして スタディポイント を導入しています。
スタディポイントは、点数や順位を競うものではありません。
評価の対象は
・課題の難易度をどう選ぶか
・挑戦をどれだけ続けたか
・どのように学びを調整したか
といった 学習行動 です。
つまり、結果ではなく
挑戦の過程
に注目する仕組みです。
このような仕組みによって、子どもは
・少し難しい課題に挑戦する
・試行錯誤する
・理解を更新する
という学びの循環を経験しやすくなります。
この循環の中で、子どもは単に知識を増やすだけでなく、
学び方そのもの
を身につけていきます。
このテーマについては、次の記事でも詳しく整理しています。
MOANAVIの学びの循環モデルとは|子どもの理解が成長する学びの仕組みを教育心理学から解説
https://moanavi.com/10553
また、MOANAVIの学習デザイン全体については、こちらの記事でも紹介しています。
MOANAVIの学習デザインとは何か|教育心理学から考える子どもの学びの仕組み
https://moanavi.com/10556
学びは連続して成長していく
教育心理学の研究から見えてくるのは、学びは単発の出来事ではなく、
連続した成長のプロセス
だということです。
子どもは
・挑戦する
・試行錯誤する
・理解を更新する
という経験を繰り返すことで、少しずつ学び方を身につけていきます。
このような経験を積み重ねることで、子どもは新しい課題にも自分で向き合えるようになっていきます。
そして、このような学びの積み重ねの中で、子どもは次第に
なぜ学ぶのか
という問いにも向き合うようになります。
次の章では、教育心理学の視点から
子どもはなぜ学ぶのか
というテーマについて整理していきます。
教育心理学から見える子どもの学びの本質|子どもはなぜ学ぶのか
ここまで、教育心理学の視点から子どもの学びを説明するいくつかの理論を見てきました。
・最近接発達領域(ZPD)
・自己調整学習
・自己決定理論
・形成的アセスメント
・学習環境デザイン
これらの理論はそれぞれ異なる研究として発展してきましたが、共通して示していることがあります。
それは、子どもの学びは
知識を覚えることだけではない
ということです。
教育心理学の研究では、学びとは
理解を更新しながら世界を理解していくプロセス
と考えられています。
つまり、勉強とは単にテストのための活動ではなく、
子どもが自分の理解を広げていく過程
なのです。
子どもはなぜ学ぶのか
教育心理学の研究では、人が学ぶ理由は一つではありません。
例えば
・新しいことを知りたい
・できるようになりたい
・周囲と関わりたい
・課題を解決したい
といったさまざまな動機があります。
特に子どもは、もともと強い好奇心を持っています。
小さな子どもは
・「なぜ?」と質問する
・新しいことを試してみる
・できるまで挑戦する
といった行動を自然に行います。
つまり、学ぶ力はもともと子どもの中にあるものです。
教育心理学では、教育の役割はその力を「与える」ことではなく、
子どもの中にある学ぶ力を引き出すこと
だと考えられています。
このテーマについては、次の記事でも詳しく整理しています。
勉強とは何か|子どもはなぜ学ぶのかを教育心理学から解説
https://moanavi.com/10559
学びは結果ではなくプロセスである
学校教育では、どうしてもテストや成績が重視されるため、
学び=結果
というイメージが強くなりがちです。
しかし教育心理学では、学びはむしろ
結果に至るまでのプロセス
に価値があると考えられています。
例えば
・難しい問題に挑戦する
・間違いから理解を修正する
・新しい方法を試す
といった経験は、テストの点数には直接現れないことがあります。
しかし、こうした経験の積み重ねこそが、子どもの理解を深めていきます。
そのため教育心理学では、
結果だけではなく、学びの過程を見ること
が重要だとされています。
これは、これまで紹介してきた
・最近接発達領域
・自己調整学習
・形成的アセスメント
といった理論とも共通する考え方です。
子どもの学びは関係の中で育つ
教育心理学の研究から見えてくるもう一つの重要な視点は、
学びは関係の中で育つ
ということです。
子どもは
・教師との関係
・仲間との関係
・家族との関係
の中で学びを経験していきます。
安心して挑戦できる環境の中では、子どもは新しい課題にも取り組みやすくなります。
逆に、不安や恐れが強い環境では、挑戦すること自体が難しくなることがあります。
そのため教育心理学では、
子どもが安心して学べる環境
を整えることが、学びを支える重要な条件だとされています。
ここまで、教育心理学の視点から子どもの学びを整理してきました。
教育心理学の研究から見えてくるのは、子どもの学びは
・挑戦
・試行錯誤
・理解の更新
というプロセスの中で成長していくということです。
そして、このような学びを支えるためには、
子どもの現在地を丁寧に見取り、適切な挑戦を整えること
が重要になります。
次の章では、ここまでの内容を整理しながら、教育心理学の視点から見た子どもの学びをまとめていきます。
まとめ|教育心理学から見える子どもの学び
子どもの勉強について悩むとき、多くの人は
・やる気がないのではないか
・努力が足りないのではないか
・もっと勉強させた方がいいのではないか
と考えがちです。
しかし教育心理学の研究から見えてくるのは、子どもの学びは単純な努力や意欲だけで説明できるものではないということです。
子どもの学びには、いくつもの要素が関係しています。
例えば
・挑戦の難易度
・学習環境
・フィードバック
・人との関係
・学習行動
これらが組み合わさることで、子どもの理解は少しずつ成長していきます。
教育心理学では、学びは次のような循環として捉えられています。
自分で課題を選ぶ
↓
少し難しい課題に挑戦する
↓
試行錯誤する
↓
フィードバックを受ける
↓
理解が更新される
↓
次の挑戦につながる
この循環が繰り返されることで、子どもは新しいことを理解できるようになっていきます。
そしてこの循環の中で、子どもは単に知識を増やすだけでなく、
自分で学ぶ力
を身につけていきます。
教育心理学が示しているのは、教育とは知識を教えることだけではなく、
子どもの学びのプロセスを支えること
だということです。
そのためには
・子どもの現在地を丁寧に見取ること
・挑戦できる課題を整えること
・安心して学べる環境をつくること
が重要になります。
子どもの学びは、短い時間で結果が出るものではありません。
しかし、挑戦と理解の更新を繰り返していく中で、少しずつ成長していきます。
教育心理学は、その成長のプロセスを理解するための手がかりを与えてくれる学問です。
そして、この視点をもとに子どもの学びを考えることで、勉強を単なる結果としてではなく、
子どもの成長のプロセス
として捉えることができるようになります。
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この記事を書いた人
西田 俊章(MOANAVIスクールディレクター/STEAM教育デザイナー)
公立小学校で20年以上、先生として子どもたちを指導し、教科書の執筆も担当しました。
現在はMOANAVIを運営し、子どもたちが「科学・言語・人間・創造」をテーマに学ぶ場をデザインしています。


